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ロック・ローモンド

(C)Arranged by FUTATSUGI Kozo


スコットランド民謡、日本語詞:門馬直衛

1 ここちよき清らの岸
  日かげ映ゆるロック・ローモンド
  君と共にさまよいたる
  懐かし懐かし ロック・ローモンド
   (*コーラス)
    君は登れ われは下らん
    行くてはスコットランドなれど
    君と共にまた語らじ
    懐かし懐かし ロック・ローモンド

2 君と別れし谷間の
  坂もけわし ベン・ローモンド
  入日うけ 峰は紅(あか)
  日かげ たそがれ告げぬ
   (*コーラス)

3 小鳥鳴き 野ばら開き
  日かげに水ねむるも
  いたむ胸には春帰らじ
  悲しみ はや消ゆるも
   (*コーラス)

     Loch Lomond

1  By yon bonnie banks
   And by yon bonnie braes,
   Where the sun shines bright
   On Loch Lomond
   Oh we twa ha'e pass'd
   sae mony blithesome days,
   On the bonnie, bonnie banks
   O' Loch Lomond.
   (*Chorus)
   Oh ye'll tak' the high road
   and I'll tak' the low road,
   An' I'll be in Scotland before ye',
   But wae is my heart
   Until we meet again
   On the Bonnie, bonnie banks
   O' Loch Lomond.

2  I mind where we parted
   In yon shady glen
   On the steep, steep side
   O' Ben Lomon'
   Where in purple hue
   The highland hills we view
   And the morn shines out
   Frae the gloamin'
    (*Chorus)

3  The wee bird may sing
   An' the wild flowers spring;
   An' in sunshine the waters are sleepin'
   But the broken heart
   It sees nae second spring,
   And the world does na ken
   How we're greetin'
    (*Chorus)

《蛇足》 18世紀前半に成立したスコットランド民謡。
 原曲は『マクギボンのスコットランド曲集第1巻』
(1742年発行)に収録されたスコットランドの古謡『ロビン・クーシー 』とされています。原曲が『ロック・ローモンド』になるまでには、かなり手が加えられた感じです。

 また、今日に伝えられている歌詞は、ジョン・スコット夫人(1810-1900)がまとめたものとされています。歌詞の元になった伝承については、諸説がありますが、次の説が有力です。ただし、この話は後年になってから創作されたものとする説もあります。

 清教徒革命崩壊後の王政復古によってイギリス国王となったジェームズ二世は、国王大権を乱用し、カトリックの復興を図ったため、議会によって退位を強制され、フランスへ亡命しました。
 王位は、ジェームズ二世の長女メアリー二世とその夫オレンジ公ウィリアム三世が共同統治者として継ぎました。これがイギリス史上有名な「名誉革命」
(1688~89)です。

 しかし、これに不満をもち、ジェームズ二世とその直系の子孫を正統な君主として支持した人びとがいました。彼らは、ジェームズのラテン語形Jacobusにちなんで「ジャコバイト(Jacobite)」と呼ばれました。
 ジャコバイトは、宗教的にはカトリックとイギリス国教の保守派、地理的にはスコットランドの高地地方を有力地盤としていました。彼らは、1701年にジェームズ二世が亡くなったあとも、息子のジェームズ・フランシス・エドワードや、その息子のチャールズ・エドワードと接触を保ち、1715年と45年に大規模な反乱を起こしましたが、いずれも鎮圧されました。

 45年の反乱では、ジャコバイトたちからボニー・プリンス・チャーリー(ボニーは「すてきな」の意)と呼ばれたチャールズ・エドワードがスコットランドに上陸し、イングランドに向かって南進しようとしました。
 これに加わり、敗れて捕らえられた兵士たちのなかに、ローモンド湖付近出身の若い兵士が2人いました。2人は、イングランドのカーライル城に送られましたが、どういう理由からか、1人は釈放され、もう一人は処刑されることになりました。

 処刑されることになった兵士は、「君は上の道を行け、ぼくは下の道を通って、君より先に帰り着いているだろう」といいました。上の道(high road)は現実の道、下の道(low road)はあの世の道と解釈されています。
 釈放された兵士が荒れ果てた道をたどって、苦難の末、郷里にたどり着いてみると、その言葉どおり、処刑された兵士の亡霊が先に着いていました。

 この曲につけられた日本語詞には、ほかに近藤玲二の恋愛詩(下記)がありますが、どの原詞に基づいたものかは不明です。

ロッホ・ローモンド

1 水蒼(あお)き川のほとり
  風も青きロッホ・ローモンド
  君が愛の瞳に似たる美わしき岸辺よ
  ロッホ・ローモンド

2 美わしき川のほとり
  我は待ちぬ ロッホ・ローモンド
  また幾たびめぐり逢瀬(おうせ)
  誓いも空(むな)しきロッホ・ローモンド

3 誓いせし川のほとり
  君は帰らぬ ロッホ・ローモンド
  香りほほ笑む花はあれど
  捧ぐるすべなきロッホ・ローモンド

4 ああ水は永遠(とわ)に変わらず
  蒼き夢を囁(ささや)
  想い出の流れ尽きせぬ
  美わし岸辺よ ロッホ・ローモンド

 ロッホ・ローモンドのロッホ(loch)は、ゲール語で「湖」という意味です。ゲール語は、スコットランドやアイルランドなどの先住民・ケルト人の言葉です。
 ロッホの「ホ」は、本来は喉音
(発音記号は[x])で、スコットランドではそう発音されますが、一般的には「ロック」と発音されることが多いようです。門馬直衛の日本語詞が「ロック・ローモンド」となっているのはこのためです。

 また、門馬直衛の日本語詞の2番に出てくるベン(ben)はゲール語で山とか峰という意味。
 ローモンド湖はスコットランド中央西部にある、グレートブリテン島最大の湖で、ベン・ローモンドはその東岸にある973mの山です。湖畔一帯は風光に富み、またグラスゴーに近いため、人気のある観光地となっています(写真)

 なお、門馬直衛の歌詞で、コーラス部分の「語らじ」と3番の「帰らじ」の「じ」は、同じ語ですが、意味も機能もまるで違います。
 「語らじ」の「じ」は打消の助動詞ではなく、意思や勧誘を示しています。したがって、「語ろう」という意味。ただし、この使い方は古型・特殊型で、一般的ではありません。

 いっぽう、「帰らじ」の「じ」は打消推量の助動詞「じ」の終止形で、「帰らないだろう」「帰るまい」といった意味。こちらは、文語では一般的な表現法です。

(二木紘三)

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コメント

メロディーの美しさで、アニーローリーと共に、この歌も若い頃から好きでした。ただ心地よく聴き歌っていましたが、2曲とも、二木先生のご解説を読むまで、その歴史的な背景のことなど全く知りませんでした。新たな感動に満たされています。
また、文法的なことのご説明も、大変良い勉強になりました。

投稿: nobara | 2008年5月 9日 (金) 12時56分

私が高校生の時代、妹がこの歌を歌っていました。中学校で音楽の時間に、習ったのだと思います。その歌詞は
1.うるわしき川の岸辺/光まぶしロックローモンド
 君と手を組みさまよいたる/麗しきロックローモンド
2.君は上り われは下る/行方は同じスコットランド ・・・・・
60歳の時、思いたって、グラスゴーから電車でローモンド湖に行きました。観光客もほとんどいないところで、清冽な風に吹かれて、岸辺に立ちました。歌詞の通り
「うるわしき川の岸辺/光まぶしロックローモンド」でした。

投稿: Patrickbyname | 2008年6月22日 (日) 19時10分

昔見たディズニー製作の「トマシーナの三つの命」で、
子供たちの歌う「ロッホ・ローモンド」が、
緑濃いハイランドの谷にこだまする光景が、
未だに瞼と耳に焼き付いています。

日本にとって、今なおスコットランドは、遠い遠い国なのでしょう。

投稿: 若輩 | 2008年6月22日 (日) 19時41分

常々「ロッホ・ローモンド」は「五番街のマリーへ」と
そっくりだと思っていますがいかがですか。

投稿: 後輩 | 2008年12月 8日 (月) 14時43分

キリスト教の全寮生の高校に在学中、音楽の授業の中でしばしばコーラスで謳いました。たまたまアイルランドのサッカー試合を衛生放送で見ていた時に、試合前に合唱をしていたのに懐かしく涙がでました。結局、この歌は卒業生に送る為の伝統的セレモニーでした。

投稿: 芳野 温 | 2008年12月15日 (月) 17時02分

 2年前に投稿しましたが、正しい資料が出てきましたので、歌詞を訂正します。緒園涼子訳のものでした。
1.懐かしき河の岸辺/光まぶしロック・ローモンド
  友と手を組みさまよひたる/この岸辺ロック・ローモンド
  Ref. 君のぼり我は下る/行く手は同じスコットランド
     また語る時もあるまじ/美わしきロック・ローモンド
2.君と別れかわしたる/谷の坂よ ベンローモンド
  山波赤く入日に映え/月昇りそめぬ
3.鳥は歌い花咲きて/水は眠り静けし
  わびしき胸に春還らじ/悩み今消ゆれど     

投稿: Patrickbyname | 2010年7月14日 (水) 19時48分

 昔から好きな歌でしたが、成就しなかった恋の歌だと思っていました。二木先生の解説を読んで、曲の背景にあるスコットランドの悲しい歴史に思いを馳せました。こんなに深い意味のある曲だったのですね。
 最近スコットランド在住の日本人女性と知り合いましたが、その方のスコットランド人の夫や周囲の人々は、今でもイギリスというよりもスコットランドへ、強い愛国心や忠誠心を持っているのだそうです。
 「五番街のマリーへ」も似ていましたか。團伊玖磨の「パイプのけむり」の何巻目だかで、この曲が「鉄道唱歌」に似ていると書かれていたことを思い出しました。

投稿: kei | 2013年3月19日 (火) 19時25分

この歌を歌おうとすると、いつも涙と鼻水が出てきて、途中から歌えなくなっちゃうんですよ。

投稿: なんでだろう | 2016年4月 7日 (木) 04時28分

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