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こいのぼり

(C)Arranged by FUTATSUGI Kozo


作詞:近藤宮子、作曲:不詳

やねより たかい
こいのぼり
おおきい まごいは
おとうさん
ちいさい ひごいは
こどもたち
おもしろそうに
およいでる
      (繰り返す)

《蛇足》 昭和6年(1931)12月に刊行された『エホンショウカ ハルノマキ』に所載。

 作ったのは、国文学者で法政大教授だった近藤忠義の妻・宮子。宮子は、幼稚園唱歌研究部に関わっていた父・藤村作(東京帝大教授)から、幼児向け唱歌の作詞を依頼され、『チューリップ』『こいのぼり』など10編の童謡を作詞しました。

 これらの作品は、日本教育音楽協会に提出され、すべて採用されましたが、明治以降に作られた多くの唱歌と同様、作詞・作曲者名が不表示のまま発表されました。

 戦後、日本音楽著作権協会が著作権を整理した際、無名著作物の作者は名乗り出るように呼びかけました。しかし、宮子は多くの唱歌が作者不詳のままだし、自分の歌が歌い継がれるなら、それで十分と考えて、手続きをとりませんでした。
 そのため、彼女の作品の著作権使用料は、作品を管理していた日本教育音楽協会に支払われていました。

 昭和56年(1981)、『チューリップ』『こいのぼり』などを含め、作者不明のまま著作権消滅期限が近づいた作品について、日本教育音楽協会は同協会の元会長を作詞者として、日本音楽著作権協会への登録を変更しました。日本教育音楽協会にとって重要な財源を確保するためでした。

 これを知った宮子は、「嘘はいけない」との思いから、自分がほんとうの作詞者であると提訴、東京地裁で著作者であると認められました。ただし、日本教育音楽協会が長らく『チューリップ』『こいのぼり』等の著作権を管理してきたという事実から、著作権は同協会に譲渡されたものと認定されました。

 日本音楽著作権協会が呼びかけたときに名乗り出ていれば、宮子には毎年かなりの収入がもたらされたはずです。戦前に育った人のなかには、こういう名誉欲や利欲の薄い人がたまにいました。
 平成11年
(1999)4月8日、92歳で没。

 もう1つの『鯉のぼり』が勇壮雄大なのに比べて、こちらは言葉もメロディも優しく、いかにも幼児向けという感じがします。

(二木紘三)

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コメント

幼い頃から聞きなれた
ほのぼのとした日本情緒を感じられるこの歌に
こんなエピソードがあったなどとは
思いもしませんでした

昔の日本女性の奥ゆかしさを感じると同時に
日本女性の気骨をも感じさせるエピソードに
いたく感激して書き込みました

投稿: ルフェビリー | 2010年4月28日 (水) 20時02分

新緑に映えて青空高く泳ぐ鯉のぼり。初夏の日本を彩る風物詩です。今年初節句を迎えるご家庭では、すでに初のぼりを立てて、成長する子どもさんやお孫さんを祝福されているのではありませんか?
 実は、この歌のイメージとは裏腹に、この歌の作詞者をめぐる裁判が延々10年にもわたっておこなわれていたのです。被告として訴えられたのは、わたしの郷土(新潟)が産んだ高名な教育者で、音楽教育に造詣の深いK氏でした。氏は長らく日本教育音楽協会の会長を務め、亡父とも面識があり、わたしの出身校の大先輩でもありましたから、わたしも固唾を飲んでこの裁判の行方を見ていました。当時、一般紙にも取り上げられたので、ご記憶の方もいらっしゃると思います。二木様の解説にもありますように、結果的には近藤宮子(本歌の作詞者)さんの勝訴に終わったのですが、わたしが裁判の経緯のなかで、どうしても被告K氏を許せなかったのは、出身地の小学校や都内に顕彰碑を立て、そこに「こいのぼり」の詞と楽譜をご自分の名前で彫り込んだことです。こうした行為が、日本教育音楽協会の維持運営のためなら著作権料もいらないし、作詞家として自分の名前など出さなくてもいいと考えておられた、近藤宮子さんの善意を踏みにじったのではないかとわたしには思えるのです。確かにK氏の音楽教育に果たした貢献度は顕彰に価するにしても、また、「こいのぼり」や「チューリップ」の原作者(近藤宮子さん)が名乗りを上げなかったにしても、この行為だけは行き過ぎではなかったかと思えてなりません。人生順風満帆のときほど好事魔多しとも言います。わたしには、人格者の氏に魔が差したとしか思えません。K氏は晩節を汚したという世評は、氏を知るがゆえに酷なようにも見えますが、甘んじて受けなければならないのではないでしょうか。たとい、氏が数千万円にのぼる著作権料を私服を肥やすために使わなかったにしても。

投稿: ひろし | 2010年5月 2日 (日) 16時29分

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