« コスモス街道 | トップページ | 中国地方の子守唄 »

みじかくも美しく燃え(Elvira Madigan)

(C)Arranged by FUTATSUGI Kozo


作曲:W. A. Mozart、作詞:岩谷時子、唄:益田宏美

春の陽が輝く朝 あなたと愛を誓い
私たちはみじかくも 美しく燃えた
鳴いてたわ空に雲雀 くちづけ交わしながら
肌をよせて いくたびか歓びの歌を

いつも働いていたわ私たち 若く健やかで
時が過ぎていくのも 忘れてた二人ね
しあわせすぎて
幻にも似た春は何処へいった 私を残して

夕べには楽しい夢 この手に我が子だいて
子守歌をくちずさみ 暮らしてた私
今日も灯の下で語るのは あなたの椅子だけ
子どもたちは出て行く 新しい夢を求め
旅立つの
美しく燃えた春を 忘れないわ
愛しつづけてきた あなただもの
いのちの火が 消えるまで

《蛇足》 曲はモーツァルトの『ピアノ・コンチェルト 第二楽章 Andante K.467)』ですが、1967年公開のスウェーデン映画『みじかくも美しく燃え』(ボー・ウィデルベルイ監督)のテーマ曲の1つとして使われてからは、『エルヴィラ・マディガン(Elvira Madigan)』と呼ばれることも多くなりました(もう1つのテーマ曲はヴィヴァルディの『四季』)

 『エルヴィラ・マディガン』は、『みじかくも美しく燃え』の原題名であるとともに、そのヒロインの名前であり、かつ映画のモデルになった女性の名前でもあります。私にとっては、図書カードのような無機質な作品名より、『エルヴィラ・マディガン』のほうが、メロディもイメージも浮かびやすくて好きですね。

 1889年、ヨーロッパの上流社会に衝撃を与えた心中事件が2つ起こりました。1つは1月30日に起きたオーストリア=ハンガリー帝国の皇太子ルドルフと男爵令嬢マリー・ヴェッツェラの心中事件で、これは1969年にテレンス・ヤング監督によって『うたかたの恋』という映画になりました。
 もう1つはスウェーデンの伯爵で陸軍中尉のシクステン・スパレ
(Sixten Sparre)とサーカスの女綱渡り芸人エルヴィラ・マディガンの心中事件です。

 シクステンとエルヴィラは身分の違いを超えて恋に燃え上がりますが、シクステンには妻と2人の子どもがおり、しかも軍役中でした。エルヴィラは人気芸人のため、サーカス団長の継父が手放そうとしません。どちらにとっても許されない恋であり、それを貫くには、逃走するしかありませんでした。

 2人は逃避行を続けた末、デンマークのトーシンエ(Tåsinge)島の小さな宿屋に落ち着きます。このころには持ち金がほとんどつきてしまいますが、脱走軍人のシクステンは働くことができません。みじめな日々が続き、2人はついに覚悟を決めました。
 1889年7月20日のよく晴れた朝、2人はまるで日常生活の続きであるかのように、バスケットに食べ物と飲み物を詰め、ピクニック
(野外食事)に出かけます。楽しく食事をし、語らい、むつみ合ったあと、シクステンがエルヴィラを撃ち、次に自分を撃ちました。シクステンは35歳、エルヴィラは21歳でした。

Elviramadigan1

 事件が報じられると、感動したスウェーデンの編集者で作家のJohan Lindström Saxonは、その年、2人の恋をテーマとしたバラードを書きました(下記)ウィデルベルイ監督はこの詩に触発されて、『みじかくも美しく燃え』を制作したといわれます。

 最期の場面を、監督は、エルヴィラの笑顔のストップ・モーションに2発の銃声を重ね合わせる形で表現しました。
 衝撃的な事件なのに、ハラハラドキドキはなく、終始淡々とした調子で描かれています。公開時、北欧の清澄な風景の描写と、エルヴィラを演じたピア・デゲルマルクの美しさが評判になりました。

(作詩:J. L. Saxon)

Sorgerliga saker hända
Än i våra dar minsann,
Sorgerligast är dock denna -
Den om fröken Madigan.

Vacker var hon som en ängel:
Ögon blå och kind så röd,
Smärt om livet som en stängel;
Men hon fick en grymmer död.

När hon dansade på lina
Lik en liten lärka glad,
Hördes bifallsropen vina
Ifrån fyllda bänkars rad.

Så kom greve löjtnant Sparre,
Vacker var han, utav börd,
Ögon lyste, hjärtan darre,
Och hans kärleksbön blev hörd.

Greve Sparre han var gifter,
Barn och maka hade han,
Men från dessa han nu rymde,
Med Elvira Madigan.

Så till Danmark styrdes färden.
Men det tog ett sorgerligt slut,
Ty långt ut i vida världen
Tänkte de att slå sig ut.

Men se slut var deras pengar,
Ingenting att leva av!
För att undgå ödet stränga
Bygga de sitt bo i grav.

Och pistolen full av smärta
Greven tar och sikte tog
Mot Elviras unga hjärta:
Knappt hon andas, förr´n hon dog.

Ack mig hör, Ni ungdomsglada,
Tänk på dem och sen Er för
Att Ni ej i blod få bada
Ni ock en gång, förr´n Ni dör !

 恋は純粋であればあるほど、2人だけの世界に閉じこもりがちになり、そのエゴイズムは身近な人びとを傷つけると同時に、結果として自分たちをデッドエンドに追い込むことになります。
 反面、それほどの犠牲を払っても恋を貫こうとする愛の深さは、人を感動させずにはおきません。

 2人が最後の時間を過ごした場所は、トーシンエ島のネレシコゥ(Nørreskov)の森の中で、正確にいうと北緯55度00分18秒・東経10度38分02秒の地点です。ここから南西へ約2.5キロの場所に2人の比翼塚が作られました(タイトル下の写真)。その前の通りは、エルヴィラ・マディガン通りと名付けられています。
 ここは恋人たちの聖地のようになっており、今なお世界中から観光客や恋人たちが訪れるそうです。

 映画が公開された1967年は、長女が生まれた年です。出産から半年ほど経ったとき、長女を信頼できる人に預け、ねぎらいと感謝の気持ちを込めて妻を誘って見に行ったのがこの映画でした。場所は新宿通りをはさんで伊勢丹本店の向かいにあった映画館でした。そんなこともあって、今も忘れられない作品です。

 『エルヴィラ・マディガン』につけられたドイツ語やスウェーデン語などの歌詞はないようですが、岩谷時子の歌詞が見つかったので、掲載します。
 歌詞のタイトルは映画と同じですが、「この手に我が子だいて/子守歌をくちずさみ」というフレーズがあることから、映画や実際の事件とは関係なく作詞されたようです。シクステンとエルヴィラの間に子どもはいませんでした。
 益田宏美は旧姓岩崎で、『聖母
(マドンナ)たちのララバイ』などのヒット曲をもっています。

 上のmp3は、最初、『映画音楽大全集』収録の楽譜で作ろうとしたのですが、これが第二楽章の半分ほどしかありませんでした。どうせ配信するなら第二楽章全部をmp3にしたいと思い、ネット上を捜したところ、無料の総譜が見つかりました。
 ところが、その解像度が低く、印刷してみたら、音符が小さいうえに、滲んでいるところもあり、読みにくい楽譜でした。そういうわけですから、曲に多少の瑕瑾があっても大目に見ていただきたいと思います。
 なお、総譜に指定されている楽器とは違う音源を使ったパートがいくつかあります。

(二木紘三)

|

« コスモス街道 | トップページ | 中国地方の子守唄 »

コメント

実在のエピソードが、モデルだったんですね。
私には、純愛の経験はありませんが、なんだか胸がキュンとしますね。
二木さんの奥様との、想い出話も、とても素敵です♪
宏美ちゃんの美しい歌声が印象的だったこの曲に、違う一面が、私の心に刻まれました。
多分、二木さんは、私の両親と同じ位の世代ではと思っています。(お嬢さんと私はふたつ違い、1965年生まれです。)次回も、楽しみにしております。

投稿: みやこ路快速 | 2014年11月14日 (金) 05時48分

この『ピアノ・コンチェルト』が映画『短くも……』によって
ぐっとポピュラーな曲になりましたね。
 私は『短くも…』は70年頃、高田馬場の名画座『早稲田竹』で観ました。超満員でした。ウィデルベルィ監督の奇のてらいのない作風が印象的でした。『サッカー小僧』も良い作品でした。そういえば新宿三越の隣に映画館ありましたよね。ジーナ・ローランズの『グロリア』を観たような…。
 シクステンを演じた男優はトミー・ベルグレンという優しい顔立ちの俳優でした。 ラストシーンの2発の銃声が今でも悲しく響いています。

投稿: かせい | 2014年11月14日 (金) 08時12分

 修正追記です。
『新宿三越の隣』じゃなく、現在の『丸井本館』の辺りですね。
『新宿武蔵野館』はいまでもあるのかなぁ。

投稿: かせい | 2014年11月14日 (金) 08時32分

 映画『みじかくも美しく燃え』は『引き潮』のコメントの中でも言及させていただきました。この映画を観た時私は高校生でしたが、とにかく映像が美しく、映画の魅力に引き込まれた作品の一つです。コンピュータ-グラフィックスで映像を操作できる現代とは違い、アナログのカメラで表現できるぎりぎりの美しさを追求した作品の一つではないでしょうか。エルヴィラが森の中で綱渡りの練習?をする場面もモーツァルトの曲とともに私の記憶の乾板に焼きついています。

投稿: Yoshi | 2014年11月16日 (日) 19時49分

クラシック音楽には「ハフナー」とか「リンツ」のように副題がついている曲がありますが、この映画が評判になったころにはこの21番のピアノコンチェルトに「エルヴィラ・マディガン」という副題が付けられていました。今はもう付いていないようですが。

「うたかたの恋」ですが、甚だ失礼ながらどうせなら1936年のアナトール・リトヴァク監督版を挙げて頂きたかった。テレンス・ヤング版のオマー・シャリフとカトリーヌ・ドヌーヴもよかったけれど、リトヴァク版はシャルル・ボワイエとダニエル・ダリューで、何と言ったらいいか、一種の「古典美」がありました。

投稿: boriron | 2014年11月17日 (月) 23時56分

 道ならぬ恋には、惹きつけられます。タブーに挑む勇気や、恋を成就させようとする気迫に、圧倒されるからです。しかし、恋の逃避行も、最後の場面が決定的に大事なように思います。
 もう10年ほど前になりますが、私の町の近く、兵庫県のH市で、小学校の先生どおしが駆け落ちをした。男は既婚者、女は未婚者だった。授業に穴があき、生徒は困り、保護者は怒ったそうだ、「迷惑だ、それでも教師か」と。
まあ、迷惑を考えていたら駆け落ちはできません。
 北海道方面へ逃げていたそうだが、数ヶ月で2人の所持金が尽きてしまった。トーシンエ島のシクステンとまったく同じ状況だ。
しかしシクステンには銃があった。すべてを悲恋の美談に昇華させる銃があった。
 いっぽう、2人の教師たちは、故郷に戻ってきて、まわりの人にさんざんわびた。2人は結婚することもなく、元の生活に戻った。目が覚めた、やりなおしたいと語っていたそうです。
この話を聞いた時「かっこ悪いな~。なぜ北海道で働かなかったのか、死ぬ気でやれば、仕事はあるだろうに。おめおめと帰ってくるなんで・・」と思った。10年前の感想だ。
 しかし、今は違う。教師たちには銃がなかったからじゃないか。銃さえあれば、現実に戻る前に、すべてに決着をつけられる。
 もうひとつ。かりに2人の教師が、銃で撃ちあって死んだとしても、あるいは湖で投身自殺をしたとしても、比翼塚などの美談の形にはならないだろう、公務員の2人には、皇太子と男爵令嬢、あるいは伯爵と綱渡り芸人という身分差の設定がないからだ。エビフライが美味しいのは、良いタルタルソースがあるからです。

投稿: 音乃(おとの) | 2014年11月19日 (水) 17時06分

この曲を聴くと泣けてきます。映画一人で観ました。

綺麗な風景 愛し合う2人最後の銃声一瞬何が起きたか分からなかった、

とてもいい音楽です 昔を思い出します。

投稿: 君恋し | 2014年11月27日 (木) 22時20分

音乃(おとの)様

小学校の教師のお話し、とても面白く読ませて頂きました。

有り難うございました。又お願いします。

投稿: 君恋し | 2014年11月30日 (日) 22時42分

なぜかこのメロデイーに心打たれました。ストーリーを知って涙もろくなりました。有難うございました。

映画公開の1967年夏は、無謀にも私達二人が結婚した記念の時に当たります。

投稿: Eichan | 2015年1月 3日 (土) 18時38分

最近、この曲、モーツアルト「ピアノ協奏曲第21番ハ長調第2楽章」ではじまり、チャイコフスキー「バイオリン協奏曲ニ長調第1楽章」の大団円で終わる、2009年のフランス映画「オーケストラ」(原題Le Condert)を観たのですが、久しぶりに観たたいへん楽しい映画でした。この映画の予告編がYouTubeにアップされているので、リンク(↓)を示しておきますので、興味のある方はアクセスしてみてください。

 https://www.youtube.com/watch?v=jyxtWUsvBBM

投稿: KeiichiKoda | 2015年2月28日 (土) 13時31分

 昔一時期、この『ピアノ協奏曲第21番ハ長調』KV467とバッヘルベルの『カノン』に嵌まり、交互にリピートしてよく聴いていました。映画『みじかくも美しく燃え』のテーマ曲で、また益田宏美(岩崎)が歌っていたなんて全く知りませんでした。

 テレビの通信回線(?)が切り替わるという時、新しくテレビを買い替えたついでに「スカパー」に加入しました。好きな洋画をいろいろと観ているうちに、この映画に出会い、この「第2楽章」が流れてきて驚いてしまいました。ラストシーンはこの曲で終ってよかった、ピッタリですね。

投稿: konoha | 2017年5月16日 (火) 21時20分

 今朝この曲をまた聴いています。
目次に載っているのをみて「え?」これもあるんだと思いました。『蛇足』を拝読しました。楽譜をそろえる大変さをお察ししました。「・・・違う音源を使ったパート・・・」とありましたが、違和感なくスウーと耳に流れてきました。

 二木演奏はいつも聴き惚れています。ありがとうございます。

投稿: konoha | 2017年5月17日 (水) 08時01分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« コスモス街道 | トップページ | 中国地方の子守唄 »