2020年10月14日 (水)

旅のつばくろ

(C)Arranged by FUTATSUGI Kozo


作詞:清水みのる、作曲:倉若晴生、唄:小林千代子

1 茜(あか)い夕陽の 他国の空で
  しのぶ思いは みな同じ
  泣いちゃいけない 笑顔をみせて
  強く生きるの いつまでも
 
2 昨日見た夢 さらりと捨てりゃ
  明日は咲きましょ 胸の薔薇
  泣いちゃいけない 笑顔をみせて
  ごらんみ空の 一つ星

       (間奏)

3 旅の燕は 日暮にゃ帰る
  せめて私も ふるさとへ
  泣いちゃいけない 笑顔をみせて
  行こよ帰ろよ 母の膝

《蛇足》 昭和14年(1939)9月発売。
 小林千代子が日本ビクターからポリドールへ移籍して最初に放ったヒット曲。

 小林千代子は、日本における”覆面歌手”の第一号とされます。覆面歌手といっても、覆面をかぶったわけではなく、身元を隠して仮名で歌った歌手という意味です。
 戦前は、音楽学校(現在の音大)でクラシックを習った者が歌謡曲を歌うのは堕落とされ、学生なら退学、卒業生なら卒業生名簿から削除される恐れがありました。そこで仮名で歌手活動をしたわけです。

 小林千代子は「金色仮面(ゴールデン・マスク)」、『三百六十五夜』などを歌った松原操は、「ミス・コロムビア」という名前で歌いました。覆面歌手には、身元を隠すという以外に、「いったい何者だろう」と人びとの好奇心を掻き立てるというプロモーション上の効果もありました。
 もっとも、覆面歌手で歌ったのは最初のうちだけで、すぐに本名に戻りました。音楽学校出の歌謡曲歌手がどんどん増えたので、本名でもあまり問題にされなくなったのでしょう。

 戦前から戦後の昭和20年代にかけて、さすらいをテーマとした歌がずいぶん出ました。
 それらは、『サーカスの唄』『旅役者の唄』『流れの旅路』などのように、各地を移動するサーカスや旅芸人をテーマとするものと、『涙の渡り鳥』や『旅のつばくろ』など、なんでさすらっているのかわからない歌の2パターンに分かれます。
 後者の場合、「いったい何があったんだろう」と想像を掻き立てられます。

 さすらいというテーマが同じだからでしょうか、曲調はどれも似通っています。知らない歌でも、一度演奏を聞けば、すっと歌えそうです。だからヒットしたのでしょう。

 この時代、さすらいの歌が多かったのは、生活の破綻などで郷里を離れ、各地を転々としなければならない人が多かった社会状況の反映といえそうです。そのせいか、どのさすらいの歌も哀調を帯びています。
 これがいいんですね。自分は安全な位置にいながら、さすらい人の情感を味わうことができますから。

(二木紘三)

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