« 可愛い花 | トップページ | 惜別の歌(その1) »

2007年4月25日 (水)

花言葉の唄

(C)Arranged by FUTATSUGI Kozo


作詞:西條八十、作曲:池田不二男、唄:松平 晃・伏見信子

(男)可愛いつぼみよ きれいな夢よ
    乙女心によく似た花よ
    咲けよ咲け咲け 朝露夜露
    咲いたらあげましょ あの人に

(女)風に笑うて 小雨に泣いて
    なにを夢見る 朝花夜花
    色は七色 想いは十色
    咲いたらあげましょ あの人に

(男)白い花なら 別れの涙
   (女)赤い花なら うれしい心
   (男)青い花なら 悲しい心
(男女)咲いたらあげましょ あの人に

《蛇足》 昭和11年(1936)7月公開の新興キネマ作品『初恋日記』の主題歌。主演した松平晃と伏見信子がデュエットし、大ヒットとなりました。

 歌謡曲っぽいフレーズが少しあるものの、歌詞・曲とも、現代なら小中学校の音楽教科書に掲載されていてもおかしくない、きれいなワルツです。

 松平晃(本名:福田恒治)は、明治44年(1911)6月26日、佐賀県佐賀市の旧家で次男として生まれました。佐賀中学(旧制)卒業後、音楽で身を立てようと、単身上京して武蔵野音楽学校(現武蔵野音大)に入学しました。

 昭和6年(1931)、東京音楽学校(現東京芸大音楽学部)に転学し、声楽の修業に励みますが、生家が経済的困窮に陥ったため、仕送りが途絶えました。苦境に立った彼は、同じ声楽科本科に在学中の先輩・増永丈夫に相談しました。

 増永は、生家の借金を返すため、藤山一郎という芸名で歌謡曲のレコードを吹き込み、次々とヒットを飛ばしていました。そのころ、クラシック音楽を学ぶ学生が歌謡曲を歌うことは、どの音楽学校でも禁じられていました。
 増永は学校に内緒でレコードを吹き込んだのですが、ヒットを飛ばせば当然学校にばれてしまいます。福田が相談したとき、増永は停学中でした。
 たまたま2人とも同じような境遇だったわけですが、当時は、世界恐慌のあおりで企業倒産や個人破産が全国で頻発していたのです。

 増永の紹介で福田は歌謡曲を歌うことになりました。ニットー、ポリドール、キング、テイチク、タイヘイなどのレコード会社によっていくつもの芸名を使い分け、『サーカスの唄』の大ヒットをはじめ、順調に実績を積み重ねました。
 その結果、昭和10年前後には、東海林太郎や藤山一郎と並び称されるスター歌手となりました。

 美声に加えて抜群の容貌を備えていたことから、映画界からも声がかかり、日活映画『花嫁日記』、松竹映画『純情二重奏』など何本もの映画に出演しました。『初恋日記』もその1つで、この作品で彼は、主題歌を歌うとともに、松平晃として女優・伏見信子の相手役も務めました。

 この共演がきっかけとなって、2人は結婚しましたが、スター同士のため生活にすれ違いが多かったり、性格が異なっていたりしたことから、1年足らずで離婚してしまいました。

 やがて、松平の人気にもかげりが見えてきました。昭和12年(1937)10月に発売された戦時歌謡『露営の歌』の大ヒットで一時的に人気を盛り返したたものの、歌謡曲のメインストリームからは次第に外れるようになりました。人気商売の宿命ともいえます。

 戦後はほとんどヒット曲が出なくなったのに加えて、公演のため渡航したブラジルで原因不明の病気にかかるといった不運が重なり、人びとの記憶からは遠のきました。
 昭和31年
(1956)に松平晃歌謡学院を設立し、後進の育成に力を注ぐようになりましたが、昭和36年(1961)2月、帰宅途中に倒れ、同3月8日、49年の波乱の生涯を閉じました。

 作曲家・福田和禾子(わかこ)は長女で、父と同じ東京芸大を出たあと、現代童謡の傑作『北風小僧の寒太郎』ほか、多くの作品を送り出しました。もって瞑すべし、といったところでしょうか。

(二木紘三)

« 可愛い花 | トップページ | 惜別の歌(その1) »

コメント

この歌は私が小学生のときに流行ったもので当時意味はあまり解らず、なんだか清潔感のある歌だと感じていて、良く口ずさんでいたもので、戦後も何かのテーマソングとして流れていたのを思い出しております。

投稿: 小森 義晴 | 2007年8月15日 (水) 15時34分

『花言葉の唄』。二木先生の「歌声喫茶」で初めて知った歌です。お蔭様で、良い歌にめぐりあえました。

 それにしても。この歌が発表されたという昭和11年は、2・26事件が起きた年です。そして翌12年は、泥沼の日中戦争の発端となった盧溝橋事件が勃発。時局は戦時色一色に染まりつつあった世相の中で、よくもこのような明るい清新な歌が生まれたものです。
 詩人・西条八十。あえて、そんな時代へのアンチテーゼの意図を込めたのでしょうか。

 この歌に限らず、戦後間もなくの『リンゴの唄』昭和30年代の『上を向いて歩こう』など、かつては国民全体の心を鼓舞し明日への活力を与えてくれるような歌が、各時代に現れました。
 しかし、今はどうでしょうか。ニーズの多様化など吹き飛ばすほどパワーがあり、多くの国民に夢と希望を与えてくれるようなメガヒット曲は現れていません。(しいてあげれば、中島みゆきの『地上の星』?しかし「国民歌謡」というには、ややパワー不足だったようです。)

 「ビジョンなき国民は滅びる」。旧約聖書の有名な言葉だそうです。今、国ですら明確な国家ビジョン、将来ビジョンを国民に提示できません。
 ならば、私たち一人ひとりが外の力に頼らず、今こそ「セルフメイド」のポジティブビジョンを持つべき時なのかもしれません。
立春の日に

投稿: 大場 光太郎 | 2008年2月 4日 (月) 19時23分

管理人様
 「花言葉の唄」は12日21時頃から音が出ていません.他のサイトと比べておおむね良好なのに,単発的に不具合が生じるのは何故ですか.聞いても分からないと思いますが対策はありますか.

投稿: kumy | 2009年1月13日 (火) 17時12分

kumy様
 修正しました。ありがとうございました。

 mp3データをブログ本体と同じココログのサーバーに置けなくなった事情については、「いい日旅立ち」のコメント欄に書いたとおりです。
 機能面やコスト面でこのホスティングサービスは良さそうと思ってmp3データを移しても、しばらくするとBandwidth(帯域幅)を使い切ってしまい、音が出なくなります。そのため、これまで5,6度もホスティングサービスを換えてきました。そのつど、mp3データへのリンクを書き換えなくてはなりません。当ブログにアップしている曲数は、数えたことはありませんが、600曲近くになっているかと思います。つまり、この3か月ほど3000~3600回もリンクを書き換えたことになります。そのため、どうしても書き換えを飛ばしてしまう曲が出てきます。
 申し訳ありませんが、換え忘れた曲については、お気づきの方からの通報を待ってリンクを付け換えるほかありません。ご理解ください。(二木紘三)

投稿: 管理人 | 2009年1月13日 (火) 18時24分

いつも素敵な曲と蛇足に感動しています。有り難う御座います。
二木先生が曲数を数えて居ないと言う事なので数えてみました。(^_^ ;)

平成21年1月11日の時点で全曲をダウンロードして曲数を計算したら514曲でした。(DLソフト使用、容量は約1.5GB)
1月13日の掲載曲一覧を計算したら526曲でした。
12曲が不明ですがmp3のデーター名がローマ字なので日本語に修正して再確認しないと差の12曲が判りません。
取りあえず参考にと思い報告しておきます。


投稿: 美佐樹 | 2009年1月13日 (火) 21時29分

 管理人様
 エディターでパスをを書き換えるだけだと思っていたので,単発的な不調の原因が分かりませんでした.膨大な作業,ご苦労様でした.ありがとうございました.

投稿: kumy | 2009年1月14日 (水) 07時30分

今日、スーパーで「花かんざし」という素敵な名前の可憐な花をみました。荷物になるので買いませんでしたが、桃色の優しい花でした。花言葉はわかりませんが,プレゼントされたらその人が好きになりそうです。私なら宝石を送られるより嬉しいですね。十代に戻りたくなります。皆さんのお好きな花はなんでしょうか。

投稿: ハコベの花 | 2013年3月19日 (火) 17時34分

「花言葉の唄」は、歳の近い姉がよく歌っていたので、子供の頃に憶えました。
 この歌を聴くたびに、何と明るく美しく、日本人離れしたハイカラなメロディだろうと感銘を受けます。勿論、歌詞も素晴らしく、特に、末尾の♪咲いたらあげましょ あの人に♪の部分は、メロディと一体化して、花を愛でる思いがほとばしり出るような爽快感を与えてくれるようで、心に染み入ります。
  この歌の作曲家が、他にどんな歌を作曲しているのであろうかと調べましたところ、その中に、私の好きな、短調のタンゴ調の名曲「並木の雨」(S9)、「雨に咲く花」(S10)も入っていました。
  優れた作曲家は、長調であれ、短調であれ、人の心を惹きつける美しいメロディを創るものだなあと感じ入っている次第です。

投稿: yasushi | 2018年3月10日 (土) 15時43分

“なにかが始まる”・・・そんな予感に胸躍らせる春の足音が、すぐそこに聞こえてくる頃となりました。

ドライブの途中で目にした、野や山や田んぼのあぜ道に芽吹きはじめた草花に、あらためて季節の移ろいと自然の摂理を感じることの多い昨今です。
春といえば、やはりいろんな花の唄を思い起こしますが、私は、『花言葉の唄』を開いてみました。

1番は、今から芽吹いてくる 可愛いいつぼみの穢れを知らない 純情無垢な乙女心をイメージ、(男性 歌唱)
2番は、風雨に耐えてやっと咲いた花だけど、なかなか1人に決められない揺れ動く微妙な年頃の女心を象徴しているようなイメージ、(女性 歌唱)

3番で やっと色とりどりに咲いた花が見えてきます。

 白い花なら 別れの涙 (男)
花は、純粋・純潔・無垢なもので、ピュアなイメージから白いチューリップでは、どうでしょう。花言葉は《失われた愛、新しい愛》です。

 赤い花なら 嬉しい心 (女)
嬉しい心ですから、《密かに愛の告白をするなら》赤いチューリップを、《大胆に愛を告げたいなら》真っ赤なバラで、

 青い花なら 悲しい心 (男)
ここは、やはり竜胆りんどうしかないでしょう。
花の種類の中で、青い色をもった花の品種はもっとも少ななく、過去どれほど多くの学者が、青いバラを咲かせることを夢見たか・・・英語で blue rose とは、不可能、あり得ない語の代名詞と言われるほどです。
アジサイやアネモネ等 ありますが《悲しんでいるあなたを愛する》という花言葉のリンドウが一番と思います。

それにしても、なぜか 男はいつも可愛いつぼみを愛るだけで、別れの涙を流し、悲しい心を引きずったままで終わることが多いようですね。

一章 様は、お変わりありませんか?

投稿: あこがれ | 2019年2月28日 (木) 16時01分

二木紘三様
 初めまして。
 松平・伏見の曲「初恋日記」がヒットして映画『初恋日記』が作られ映画『初恋日記』の挿入歌として「花言葉の唄」が作られたとNHKラジオで言ってましたが、、、。

投稿: 藤和三 | 2019年8月12日 (月) 04時01分

これは綺麗ないい歌ですねえ。昔、TVで宝塚歌劇の歴代最高のプリマと称せられる加茂さくらがボニー・ジャックスと一緒に歌った映像がYouTubeに残っています。さすが加茂さくら、このヴァージョンも素敵でした。

投稿: ジーン | 2019年11月 5日 (火) 14時43分

   
立冬も過ぎ、周りの自然は冬支度に忙しいようです。
冬といえば、花は少なく、物寂しさを憶える時期ですが、嬉しいことに、歌の世界では、自由に季節を行き交うことができます。
今日は、思い出したように、”花”が登場する『花言葉の唄』や、『春の唄』(喜志邦三 作詞、内田 元 作曲、月村光子 唄 S12) を、由紀さおり・安田祥子さんや、倍賞千恵子さんの歌声で聴いております。
美しい歌声に、癒されます。

歌詞を眺めていますと、歌詞2番に、
    なにを夢見る 朝花夜花
    色は七色 想いは十色
とあります。
”花はいろいろ、虹の七色。花を愛でる人の想いもいろいろ、十人十色。”というところでしょうか。作詞者の思いが伝わってきます。

投稿: yasushi | 2021年11月16日 (火) 10時23分

I like the composer of this song: 飯田三郎。
He wrote many wonderful popular songs.

Is the name of this song "山陰之道" or "山蔭之道" ?
Which is correct?

投稿: 張仁昌 | 2022年4月29日 (金) 17時45分

張仁昌様
Thank you for posting.
山陰之道 and 山蔭之道 have the same meaning. However, the word 山陰 may be mistaken for a certain area in western Japan, so it is generally written as 山蔭之道.
(FUTATSUGI K.)

投稿: Administrator | 2022年4月29日 (金) 23時12分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 可愛い花 | トップページ | 惜別の歌(その1) »