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2007年8月28日 (火)

すみだ川

(C)Arranged by FUTATSUGI Kozo


作詞:佐藤惣之助、作曲:山田栄一
唄:東海林太郎、台詞:田中絹代

1 銀杏返しに黒繻子(くろじゅす)かけて
  泣いて別れたすみだ川
  思い出します 観音さまの
  秋の日暮れの鐘の声

  (台詞)
   「あゝそうだったわねえ、
   あなたが二十歳(はたち)、
   わたしが十七の時よ。
   いつも清元のお稽古から帰って来ると、
   あなたは竹谷(たけや)の渡し場で
   待っていてくれたわねえ。
   そして二人の姿が水に映るのを眺めながら
   ニッコリ笑って淋しく別れた、
   本当に儚(はかな)い恋だったわねえ」

2 娘心の仲見世(なかみせ)歩く
  春を待つ夜の歳(とし)の市
  更けりゃ泣けます 今戸(いまど)の空に
  幼馴染(おさななじみ)のお月様

  (台詞)
   「あれから私が芸者に出たものだから
   あなたは逢ってくれないし、
   いつも観音様へお詣りする度に、
   廻り道してなつかしい隅田のほとりを
   歩きながら一人で泣いていたの。
   でも、もう泣きますまい。
   恋しいと思っていた
   初恋のあなたに逢えたんですもの。
   今年はきっときっと
   嬉しい春を迎えますわ」

3 都鳥さえ一羽じゃ飛ばぬ
  むかし恋しい水の面(おも)
  逢えば溶けます 涙の胸に
  河岸(かし)の柳も春の雪

《蛇足》 昭和12年(1937)発表。

 戦前の東京の下町情緒がたっぷり詰まっている歌。戦後は、島倉千代子も歌いましたが、これも艶っぽくてよかった。

 銀杏返しは女性の髪型の1つ。髻(もとどり)――頭頂部で束ねた髪――の上部を2つに分け、左右に曲げて半円形に結んだもの。江戸後期から明治にかけて使われました(写真)
 黒繻子は繻子織りにした黒い布、すなわち黒いサテンのことです。繻子織りは、縦糸または横糸だけが表面に現れるような折り方。
 銀杏がえしに黒繻子をかけるのが、大正から昭和初めごろの流行りだったようです。

 語りに出てくる「竹谷の渡し」は、正確には「竹屋の渡し」。江戸時代、近くにあった茶店の名に由来するといわれます。「向島の渡し」とか「待乳(まっち)の渡し」とも呼ばれました。近くの台東区スポーツセンター広場に渡し跡の碑があります

(二木紘三)

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コメント

私はこの歌が大好きです。今日も一人カラオケで歌いました。台詞も思いいれたっぷりに…。東海林太郎の歌うCDも持っていますが、残念ながら台詞は田中絹代でなく、浅丘ルリ子です。ルリ子の台詞はほんとにうまいです。特に「お参りする度に」のところを「お参りするたんびに」と東京弁で(?)言うところが懐かしいです。

田中絹代の台詞を聞いてみたい。どうしたら聞けるでしょうか。どなたか教えて下さい。

投稿: 吟二 | 2008年10月14日 (火) 23時44分

懐かしい歌ですね。少女の頃、母に黒繻子の端切れをもらい人形の髪の毛にしました。横糸を抜き縦糸だけを使います。市松人形のようになるはず‥‥が、綿を詰めた頭への接着が難しく、ご飯糊を人差し指につけたまま手こずった覚えがあります。

投稿: 高木ひろ子 | 2008年10月15日 (水) 20時39分

一葉と荷風をないまぜしたように下町情緒が溢れます
大川端を背景にしたモノといへば 他に明治一代女とか築地
明石町(小野由紀子のではなく やはり東海林太郎の歌唱)
などがうかんできますが 共通しているのはどこか澱んで
湿ったすこしすえてかび臭いような匂いじゃないでしょうか
新派の芝居から漂ってくる匂いとおんなじです
戦前 浅草や隅田公園を遊びまわっていた往年の洟垂れ小僧にとってはなんとも懐かしい
それにしてもすっかり変わりました
春先には他人様に伍して花見の真似事でもしましようと墨堤
あたりに出向いてはみるのですが 肝腎の桜が頭上の首都高
から降り注ぐ排ガスと砂埃に脱色された上 強すぎるライト
アップに干上がってまるで白茶けた造花
なんの情趣も無く感興をそがれて花見酒を酌むことも忘れ
早々に退散しました
郷愁はいまや小説か歌の世界にしかないようです

投稿: 居候の徳三郎 | 2008年10月16日 (木) 21時33分

吟二さん。
田中絹代の台詞はここで聴けます。
http://www.youtube.com/watch?v=fAEH5Gmoo_M&hl=ja

投稿: PHOENIX | 2009年6月 4日 (木) 23時58分

PHOENIXさん、ほんとですね。聞けて嬉しかったです。有難うございます。まったりした田中絹代の台詞は、浅丘ルリコのと違う味がありました。映画女優(または俳優)の台詞は、舞台女優(俳優)のそれと違って誇張がなく、あっさりと表現するから、自分がやる場合それがかえって難しい気がします。

投稿: 吟二 | 2009年6月 5日 (金) 20時57分

私が生まれる前のうたをきいてみたいと思いました

投稿: 島幸一郎 | 2014年5月23日 (金) 09時45分

61才ですが、この唄は心に残り、妙な懐かしさを感じますね。失われた時を感じますね。最初は歌詞をうる覚えで、ネットで調べたらこのサイトにたどり着きました。
人生の大切な、唄に出会いました。感謝です。

投稿: 岩崎正則 | 2014年11月 2日 (日) 23時38分

昨夜、近所を歩いていたら、塀の中からこの歌の三味線の音が聴こえてきました。歌の出だしは知っていましたが、題名がわかりません。検索で調べたら「すみだ川」でした。情緒あふれる三味の音が川水の流れにゆらゆらと流れていくようでした。戦前に街中の川の横で料亭をしていた伯母の家に行った夜、こんな感じの光景だったと思い出しました。ゆらゆらと川水に街灯と三味の音が流れて行くのを眺めた記憶が甦りました。何とも言えない情緒を感じたのだと思います。半年後に戦災ですべてが消え去りました。検索した時、市丸さんの歌を聴きました。美しい人ですねぇ。テレビで観た覚えはあります。戦争で焼けなかったらもう少し情緒が残った街になっていたのにと残念に思います。

投稿: ハコベの花 | 2018年7月 1日 (日) 23時41分

ハコベの花さま ほんとに懐かしい曲のリクエストありがとうございます。
久しぶりで、作詞、作曲、唄、台詞と見事に四拍子揃った昭和期前期の名曲中の名曲を聴いた思いがをします。
この曲との最初の出会いは、私の妹が小学三年生の頃に日本舞踊(藤間流)を習い、得意としていた踊りで、町内会の夏祭りの仮設舞台などで舞っていたのを懐かしく想い出しております。
と同時に、母も若いころ日本舞踊と三味線も習っていたようで、この「すみだ川」もそれなりに弾けるようになり、その姿を懐かしく想い出しております。

それにしても、いつもながら思うのですが、二木オケの見事なアレンジと素敵な演奏には感服あるのみです。
ありがとうございます。

このところ佐賀地方では、台風の後、連日の「バケツをひっくり返したような」激しい雨で宅配業務も悪戦苦闘中・・・河童を着用していても下着まで濡れる有様です。
さて、明日はどうなることやら・・・心配ですが、安全運転で頑張ります。

投稿: 一章 | 2018年7月 5日 (木) 23時18分

一章様 私は、三味線も日本舞踊にも全く興味が無かったのですが、近所から聞こえた三味の音に懐かしさを感じ二木様のこの演奏を聴いてみました。三味線の音色が何とも言えないすばらしさで、何回も聴きなおしました。三味線を弾いていた人はまだ慣れないようで、何回も引き直していましたので、この演奏を教えてあげたくなりました。
情緒が無くなった現代の日常に潤いを与えてくれる音色ですね。ついでに市丸さんの美しさと声をお聴きいただければと思います。美人も良いものです。
大雨の中。お仕事ご苦労様です。くれぐれもお気をつけて下さいね。

投稿: ハコベの花 | 2018年7月 6日 (金) 11時55分

一章様

佐賀県にも大雨特別警報が発令されました!

どうかくれぐれも注意されて下さい。

歌とは無関係の送信を深くお詫び申し上げます。

投稿: 芳勝 | 2018年7月 6日 (金) 17時22分

ハコベの花さま
コメント嬉しく拝読させていただきました。
いつもご丁重なお言葉を戴きありがとうございます。
この度の九州北部地方の大雨にお心づかいとお見舞いについて厚く御礼申し上げます。
この大雨の中、宅配業務も正直って大変です。
でも、心待ちにしておられるお客様のことを考えると、ここはひと頑張りするほかないと思っております。
私も、ハコベの花さまが、おっしゃるように、以前から「市丸」さんのフアンの一人でした。
早速、私のSP盤コレクション(流行歌・歌謡曲約400枚)の中のこの曲を、久し振りで聴きました。特に蓄音機で未だに聴けるのが不思議なようにさえ思えます。
市丸さんの「ハアー 天竜下ればヨーホイノサッサ しぶきに濡れてヨ・・・咲いたさつきに・・・」
ハコベの花さまがおっしゃるように、市丸さんは美人でもあり、唄の雰囲気が男心を誘い込むようにさえ思えますが・・・。
コメントありがとプございました。

芳勝さま
いつもお心配りを戴きありがとうございます。
この度の台風7号が去った後の豪雨について、長崎県・佐賀県・福岡県を中心とする北部九州の豪雨・・・今後が心配になるところですが・・・特に、私が心を痛めているのは、昨年の福岡、特に朝倉・小石原地区等での北部九州での災害が大きくならないように願っているばかりです。
昨日と本日と宅配業務では、大雨のため難儀も難儀でしたが、心を入れ替え、来週明けには、またいつもの元気を取り戻したいと思っております。

投稿: 一章 | 2018年7月 6日 (金) 21時30分

懐メロ・流行歌・唱歌・童謡・歌曲と幅広いジャンルで好みの歌を聞いています。また、二木先生の歌の解説にいつも読み耽って、歌の背景や時代などの解説に思いを新たにしています。東海林太郎さんと島倉千代子さんのデュエット・島倉さんの語りもなかなか良いと思っています。
ところでこの歌は永井荷風の小説「すみだ川」が題材となっているのでしょうか?世の中には小説を題材にした歌がたくさん溢れていますが、この「すみだ川」もそうなのでしょうか?

投稿: たかし | 2020年4月 3日 (金) 13時12分

たかし様  おっしゃる通り、永井荷風の「すみだ川」を下敷きにしているようです。音楽メディア史研究家の菊池清麿さんの日常随想・昭和博物誌というブログの 2014年06月22日に、荷風と流行歌-「すみだ川」、と題された長い文章があり、「昭和一二年一月新譜では永井荷風の『すみだ川』の小説を素材に製作された文芸歌謡《すみだ川》(佐藤惣之助・作詞/山田栄一・作曲)も当時の新企画盤として話題を呼んだ。」とあります。「歌ではお糸の淡い長吉への恋心が主題になっているが、小説では...」と詳しく説明されています。

佐藤惣之助さんはすごい作詞家ですね。「湖畔の宿」とか「新妻鏡」とか、歌詞が詩的で美しいです。この「すみだ川」の田中絹代さんの語りも美しいです。

投稿: kazu | 2020年4月 4日 (土) 23時44分

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