洒落(しゃれ)男
(C)Arranged by FUTATSUGI Kozo
日本語詞:坂井透、唄:二村定一/榎本健一
1 俺は村中で一番 2 そもそもその時のスタイル 3 吾輩の見染めた彼女 4 馴れ染めの始めはカフェー 5 言われるままに二、三杯 6 君は知っているかい僕の 7 アラマアそれは素敵 8 おおいとしのものよ 9 夢かうつつかそのとき 10 財布も時計もとられ A Gay Caballero 1. Oh I am a gay caballero 2. I'm seeking a fair senorita 3. I'll tell her I'm of the nobilio 4. It was at a swell cabaretta 5. She told me her name was Estrella. 6. She was a dancer and sing-a 7. She told me that she was so lonely 8. I swore I'd win this senorita 9. Now I am a sad caballero |
《蛇足》 原曲がアメリカでレコーディングされたのは1928年で、その2年後の昭和5年(1930)に日本語盤が発売されました。
原曲タイトルのcaballeroはスペイン語からの外来語で、紳士・騎士という意味。A gay caballeroは「陽気な伊達男」といったところ。
原詞は、ブラジルのリオデジャネイロから彼女を探しにやってきた男が、「ひとりぼっちよ」という女の言葉を信じてバルコニーから忍び込んだところ、女の亭主に見つかってさんざんどやされ、ほうほうの体でリオデジャネイロに逃げ帰った……という筋書きです。
地理については、1番でリオデジャネイロと言っているのに、2番ではアルゼンチンが出てくるなど、混乱が見られます。しかし、ブラジル語(ポルトガル語)ともスペイン語ともつかないラテン系の単語がいくつも出て来ることから見ると、わざとごちゃ混ぜにしているのかもしれません。
bull-o, meat-a, feet-aなど、英単語にハイフンを挟んで母音がついているのは、ラテン系なまりの英語であることを示しています。
坂井透の日本語詞は、原詞の筋書きをよく反映し、しかも自然な日本語になっており、外国ポピュラーソングの訳詞としてまことに秀逸です。
1番のモボはモダンボーイの省略形で、大正末期から昭和初期にかけて最先端のファッションで都会を闊歩した若者を指します。その女性形がモガ、すなわちモダンガール。
2番のシャッポはフランス語のchapeau(シャポー)から来た外来語で、帽子のこと。
ロイド眼鏡は、アメリカの俳優ハロルド・ロイドが映画の中でかけたところから流行った眼鏡で、太縁の円形眼鏡。
セーラーのズボンは、1857年にイギリス海軍が制式採用した水夫服(セーラー服)を模したズボンで、裾が広くなっているのが特徴。今風に言うと「ベルボトムのパンツ」です。
田舎の青年が都会の最先端のファッションと信じる服装で銀座にやってきたわけですね。
3番のボッブヘアーは、顔側にカールした髪型で、モガの典型的なヘアスタイル。
4番のカフェーは、コーヒーも飲めましたが、女給(ホステス)が酒をサービスする場所で、今日のバーかキャバレーに類する娯楽施設です。この歌のようなカフェーは、アヤカフと呼ばれました。「怪しいカフェ」の意で、今日で言うボッタクリバーです。
上の絵は林唯一による銀座のモボとモガの図(『風俗雑誌』昭和5年〈1930〉7月創刊号掲載)。
(二木紘三)
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コメント
久しぶりに二木紘三のうた物語」を拝見させていただきました。「洒落男」の解説で「セーラーのズボンは、1857年にイギリス海軍が(制式)採用した」と書かれておりますが、「正式」ではないでしょうか。小学館発行の「新選 国語辞典」には「正式」はありますが、「制式」は載っておりません。いかがでしょうか。えらそうな事を言って申し訳ありません。
投稿: 城 保 | 2013年4月29日 (月) 19時29分
城 保様
「制式」は大辞林、広辞苑、国語大辞典(小学館)などの大きな国語辞典や百科事典には載っています。「制式」は「正式」とは意味が違い、「一定の基準に従って決められた様式」という意味です。実際にはほとんど軍隊で使われおり、軍が決めた条件に従って武器や制服その他の軍需品を採用することを「制式採用」といいます。『カチューシャ』の『蛇足』でも「カチューシャ砲はソ連が開発し、対独戦に使われた多連装ロケット砲の愛称で、制式名は別にあります」と書いています。制式名とは軍が制式採用した武器の名称です。(二木紘三)
投稿: 管理人 | 2013年4月29日 (月) 20時32分
大変失礼いたしました。浅学非才の身ゆえ申し訳ないことをいたしました。平にご容赦下さいませ。先生の御教示で私も勉強させていただきました。ありがとうございました。今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。
投稿: 城 保 | 2013年5月 2日 (木) 19時16分
ふと、野村ぼやき元監督が口ずさんで(?)ひろまった「ばっかじゃなかろかルンバ」を思い出し、ネット検索してみると、若いのがそういうのを歌っていると知りました。歌詞全部をざっとみると、なんのことはない現代版洒落男の縮約版。
子供のころ榎本健一さんが例の調子で歌っていたのを耳にした記憶がありますが、中身は焼き直しでも、ルンバのほうの歌詞はこりゃひどい。
シンガーソングライターという名の素人が跋扈するようになって久しく、西城八十・佐伯孝夫系列の本格派は完全に死に絶えたようですね。
投稿: 僭称二代目人生幸朗 | 2013年7月24日 (水) 11時47分
管理人様
『洒落男』、外国ポピュラーのリストにも目を通したつもりでしたが見落として申し訳ありません。早速聴かせて頂き、知りたかった原語も適切な解説付きで満足です、ありがとうございました。これは訳詞も秀抜で、まことに傑作コミックソングと言うにふさわしく、人間だけに許されているという笑う幸せを十分に味わいました。
投稿: dorule | 2015年10月15日 (木) 21時14分
♪俺は村中で一番 モボだと言われた男…♪の、「洒落(しゃれ)男」は、気軽に歌える、陽気なコミック・ソングとして、子供の頃から、知っていました。
今でも、ときどき、二村定一さんによる歌声を聴いております(CDで)。
最近、YouTubeを検索していて、あの高名な藤山一郎さんが歌う「洒落(しゃれ)男」に、巡り合いました。
藤山一郎さんといえば、「丘を越えて」(S7)、「東京ラプソディ」(S11)、「青い背広で」(S12)、「青い山脈」(S22)、「花の素顔」(S24)など、真面目に、正確に歌うというイメージが、私の脳裏に定着していましたので、 先ずは、この歌をどんな風に歌うのだろう?と、興味深々でした。
そして、「洒落(しゃれ)男」の曲想に合うように歌っておられる、藤山一郎さんの歌声を聴きながら、藤山一郎さんの別の一面を垣間見るようで、何とも、楽しく、愉快な出合いでした。
投稿: yasushi | 2020年3月26日 (木) 13時35分