紅屋の娘
(C)Arranged by FUTATSUGI Kozo
作詞:野口雨情、作曲:中山晋平、唄:佐藤千夜子
1 紅屋で娘の いうことにゃ 2 お顔に薄紅 つけたとさ 3 今宵もお月様 空の上 |
《蛇足》 大正13年(1924)、『令女界』の3月号に『春の月』という題名で曲と詞が発表されました。
『令女界』は、今の'an.an'、'non.no'等に相当する女性誌で、二十歳前後の女性を対象としていました。上の写真は、左が昭和3年(1928)3月号、右が昭和4年(1929)4月号の表紙。
昭和4年(1929)5月、日活映画『東京行進曲』の主題歌として同名のレコードが発売されましたが、そのB面に入っていたのがこの曲でした。ただし、タイトルは『紅屋の娘』に変えられました。
『東京行進曲』は日本における映画主題歌の第1号で、大ヒットとなりました。それにつられるかのように『紅屋の娘』もヒットしたので、日活と東亜キネマが競作で映画化しました。
紅屋は要するに化粧品屋で、紅花から取った頬紅や口紅を貝殻の皿に入れて売っていたことから、一般には紅屋と呼ばれていました。
「春の目覚め」を迎えた娘たちは、情緒の揺れが大きくなり、何か物思いにふけっていたかと思うと、意味もなくソワソワし、つまらないことに笑い転げ、すぐメソメソし、あらぬ事を口走ったりします。一見支離滅裂な歌詞には、そうした年頃の娘の心情がよく表されています。
(二木紘三)
コメント
二木先生、本当に懐かしい歌を有難うございます。明治39年
生まれの私の母が、口ずさんでいた日を、懐かしく思い出し
ながら、何度も聴いてしまいました。思い出の中の母は、まだ
若い姿をしておりますが、私自身喜寿を迎えた今、母はどんな
気持ちで晩年を過ごしたのかと、そんなことばかり考えて
しまうこの頃、幼いころ見た丸髷姿の母を偲びながら、久しぶり
に嬉しい気持ちで聴かせて頂いております。有難うございました。
投稿: れいこ | 2008年9月23日 (火) 07時41分
懐かしいですね。わたしの母(明治41年生まれ)も生前家事をしながらよく歌ってました。ですから小学生だったわたしも、自然に覚えてしまったんですが、母がこの歌を唄っていたのは戦後なんです。戦時中は重大な戦局にかんがみ、“軽佻浮薄”な歌として軍部が唄わせなかったんだろうと思いますが、戦後40歳近い母が好んでくちずさんでいたことを思い出すにつけ、この歌が発売当時、如何に若い女性の心を惹きつけていたか、分かりますね。二木様ありがとうございました。
投稿: ひろし | 2008年9月24日 (水) 15時20分
二木先生、この歌は日露戦争に行ったこともある祖父が好きな歌でした。祖父は昭和45年に亡くなりましたが、この歌を聴くと生き生きと思い出します。アップしていただいてありがとうございます。
投稿: 江尻 陽一 | 2008年10月15日 (水) 21時47分
お年寄りの施設でよくご一緒して歌いますが、先日「トサイサイ」って?というご質問を頂きました
合いの手ではと思いますが、少し変わっているのでこの語源など教えて頂けますか
投稿: 上野真理子 | 2009年4月21日 (火) 07時19分
私は団塊世代ですが大正3年生まれの母が唄っていた事を覚えています。おそらく小学校以前だとい思いますが何故かこの歌だけ覚えています。久しぶりに聞いたときは感動しました。日光の竹下夢二美術館にはた夢二が書いた挿絵つきのSPレコードのジャケットとレコードがありました。残念ながらこの絵の複製は売っていませんでした。
投稿: 冨太郎 | 2011年2月12日 (土) 22時00分
初めまして。
gooブログで「ちわきの俳句の部屋」をUpしています。
蛇笏の〈口紅の玉虫いろに残暑かな〉の句から、京紅(小町紅)の話になって、「紅屋の娘」という歌が出てきました。
それでどんな歌かを探していて、貴ブログに巡り会いました。その歌詞と蛇足の記事を引用させて頂きたく、コメントさせて頂きました。
どうぞご了承をよろしくお願いいたします。
投稿: ちわき | 2020年9月 3日 (木) 20時25分
「紅屋の娘」私はこの唄の作者、そして童謡詩人の大家でもある野口雨情をこよなく崇拝する者の一人です!
数年前にこの曲のページを開いた時、大正13年『令女界』の3月号に、この唄が発表された時の題名は「春の月」だったことを<蛇足>に記されている解説で知った私は、改めてこの3聯の歌詞を見直しながら、後年になり、映画の主題歌として題名が「紅屋の娘」に変更されたという、その意図が私にも理解できてそしてすんなりと腑に落ちたことを憶えています。
1 ・・・春のお月様 うす曇り
3 今宵もお月様 空の上・・・
この唄の、特に上記の歌詞の表現なんかを見ていると、私の最も好きな作品でもある「雨降りお月さん」をどこか彷彿させます。
童謡三大詩人の一人とも云われる野口雨情の詩には、いつもどこかに不思議さを秘めたような、そんなものを私は感じます。特に「雨降りお月さん」「赤い靴」「十五夜お月さん」などの詩をじっと見ているときの自分は、いつしか想像の世界へと導かれるような気がしてきます。
「紅屋の娘」この唄の歌詞に見られる『サノ』や『トサイサイ』という、この独特な合いの手の表現も、感性豊かな大詩人野口雨情ならではの為せる業ではないでしょうか。また当時、化粧品屋が紅屋と呼ばれていたころの時代背景にさえも、私は情緒や風情を憶えます。
投稿: 芳勝 | 2024年3月 8日 (金) 22時30分