皆殺しの歌
(C)Arranged by FUTATSUGI Kozo
作曲:Dimitri Tiomkin、作詞・唄:Gianni Morandi
Deguello (イタリア語詞) Un gesto e poi viene la sua fine La vita non ha La vita di un uomo cosa conta per te ---------------------------------------- (英語詞) You made me feel like I've never felt Every day was something new, You didn't have to shake it but you did All my life I've been shortchanged |
《蛇足》 1959年のアメリカ映画『リオ・ブラボー』(ハワード・ホークス監督)、および1960年のアメリカ映画『アラモ』(ジョン・ウェイン監督)の挿入曲。
作曲は両作品の音楽を担当したディミトリ・ティオムキンで、のちにイタリアのシンガー・ソングライターのジアンニ・モランディがイタリア語と英語で歌詞をつけました。
deguelloは、イングリッシュ・スピーカーはたぶんディゲロゥと発音すると思いますが、本来はスペイン語で、degüelloと綴り、デゲジョまたはデゲリョと発音します(lloの発音は地域・国によって違う)。
動詞degollarの名詞形で、首切りとか喉切りといった意味。戦闘などの場面では英語のno quarterと同じ意味で使われます。no quarterは「降伏は受け入れない、死ぬまで戦え」で、要するに皆殺しということです。
なお、no quarterは1899年締結のハーグ陸戦条約で禁止されました。しかし、その後の大小の戦争では無視される場面が続出しています。
ネタバレになりますが、この曲は『リオ・ブラボー』では、次のような場面で使われました。
テキサスの町リオ・ブラボーの保安官チャンス(ジョン・ウェイン)は、殺人犯を逮捕しますが、男の兄はその地方の大ボスでした。彼によって殺人犯が奪還されるのを防ぐため、チャンスは、アル中の早撃ち名人デュード(ディーン・マーチン)や脚の不自由なスタンピィ老人(ウォルター・ブレナン)、幌馬車隊の護衛だったコロラド(リッキー・ネルソン)を、保安官事務所に立てこもらせます。
ボスは彼らを脅すために、近くの酒場で一晩中この『皆殺しの歌』を演奏させるのです……。
映画『アラモ』では、メキシコ軍がアラモ砦に立てこもるテキサス軍に総攻撃をかける前の場面で、この曲が流されました。
上の2作品に使われた"Deguello"は、ディミトリ・ティオムキンのオリジナルですが、その発想源になったのが実際のアラモの戦いで使われた"Degüello"です。
アラモの戦いは、1836年2月23日~3月6日の13日間、テキサス独立派の守備隊とメキシコ共和国軍との間で交わされた戦い。
当時のテキサスはメキシコ領でしたが、ヨーロッパ系の住民が増えるにつれてメキシコから分離独立しようという気運が高まり、やがて戦いへと発展しました。
反乱軍を鎮圧するため、メキシコ大統領だったサンタ・アナ将軍が軍を率いて北上、ウィリアム・トラヴィス中佐指揮下の守備隊が立てこもるアラモ伝道所(写真)を取り囲みました。
アラモ伝道所は、現在もサンアントニオの市内に残っており、遺跡として保全されています。
メキシコ軍は進発時には6100人いたと伝えられますが、各地の戦いで兵を損耗し、アラモの攻城戦に参加したのは1600人程度だったようです。
いっぽう、守備隊側はテキサス暫定政府の正規兵と各地からの志願兵を合わせて200人前後(正確な人数は不明)で、ほかに少数の女子供がいました。
守備隊には、西部開拓史に伝説的な名を遺すデイヴィ・クロケットやジェームズ・ボウイ(ボウイナイフの開発者といわれる)が加わっていました。
3月6日の早暁、メキシコ軍は突撃を敢行、寝込みを襲われた守備隊側は抵抗したものの、戦闘員は全員戦死しました。その数は183人から250人の間と伝えられます。
生き残ったのはトラヴィスとボウイの黒人奴隷各1人と女子供24人だけ。サンタ・アナは戦闘終了後、この26人を解放しました。
この13日間の戦いの間、メキシコ軍が繰り返し演奏したラッパ曲が、
"Degüello"でした。
ティオムキンの"Deguello"がスローテンポで神秘的、ある意味不気味に聞こえるのに対して、メキシコ軍の"Degüello"はハイテンポで、進軍ラッパのように勇壮な曲です。
メキシコ軍の"Degüello"は、ムーア人の曲が起源と伝えられます。ムーア人はアフリカ西北部の住民ベルベル人のことでしたが、イスラム教徒がイベリア半島に進出してから、ヨーロッパではイスラム教徒一般を指すようになりました。
イスラム教徒支配の時代に、この曲がスペイン民衆にも使われるようになり、やがてコンキスタドーレス(征服者たち)によってメキシコに持ち込まれたとされています。
(二木紘三)
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コメント
またまた胸が熱くなるような西部劇の名曲...。
「皆殺しの歌」が観たことのある二つの映画で使われていたとは知りませんでした。確かディミトリ・ティオムキンが国境近くでこの曲を採譜したと何かの本で読んだ記憶があります。もしかしたら「赤い河」にも?
しかし1950年代の西部劇はバック・ミュージック共に本当に良かったですネ。「ジャニー・ギター」しかり、アイルランド民謡の『庭の千草』に似た口笛での「誇り高き男」、ビクター・ヤングの「遥かなる山の呼び声」、ティオムキンの「ハイ・ヌーン」・「OK牧場の決闘」、そしてモンローが歌った「帰らざる河」(ライオネル・ニューマン作曲?)・・・酒場で歌っているモンローを肩に担いで出て行くロバート・ミッチャムの<My Home!>というシーンとセリフは、最高に痺れました。
投稿: 尾谷 光紀 | 2009年5月24日 (日) 22時50分
随分怖い題名ですね。しかしジョンウェインの映画はいつも相手(インディアン)をいたわって終わりました。
ここが魅力でした。
投稿: 海道 | 2009年5月25日 (月) 11時35分
私がニニ・ロッソという名トランペッターを知ったのは、この「皆殺しの歌」の演奏がきっかけでした。この物騒なタイトルに似合わぬ哀調を帯びた旋律がとても印象的でした。これと似た例として、藤田まこと主演「必殺仕事人」シリーズの第4弾、「暗闇仕留人」の中の殺しのシーンで流れていた,西崎みどりの「旅愁」という曲を思い出します。こちらの方はもっとしっとりとした曲調でしたが。
投稿: くまさん | 2009年5月26日 (火) 22時04分
ジョン・ウェイン、ローレンス・ハーヴェイ、リチャード・ウィドマーク・・・2番館で19才の時見た映画「アラモ」を思い出します。
投稿: Bianca | 2009年5月26日 (火) 23時06分
〔皆殺しの歌〕という題名とこの重厚な旋律はそぐわない様にも思いますが上記のBiancaさんがお書きになった俳優達の顔ぶれを思い出すとぴたりとした感じを受けます。
懐かしい曲とともに懐かしい映画題名、俳優名を目にする事が出来て楽しみです。
投稿: おキヨ | 2009年5月29日 (金) 11時14分
『アラモ』。ずっと前(テレビで)2回ほど観ました。二木先生の解説では、メキシコ軍の総攻撃の前にこの曲が流れていたそうです。しかし何しろ、その最終攻防戦が鬼気迫るもの凄い迫力で。その予感に心高ぶって、この曲が流れていることにまったく気がつけませんでした。
今回改めて聴いてみますとなるほど聴き覚えがあり、心なしか哀調を帯びて感じられます。
ディビィ・クロケット大佐(ジョン・ウェイン)、ジム・ボウィ大佐(リチャード・ウィッドマーク)、ウイリアム・トラヴィス中佐(ローレンス・ハービー)。三者三様の魅力的なキャラクターがキラキラと輝いていて。『アラモ』は、『シェーン』や『荒野の決闘』などと並ぶ、西部劇の名作の一つだと思います。
投稿: Lemuria | 2009年6月 7日 (日) 19時48分
「アラモ砦」といえば、私はもう一つ別の砦を思い浮かべます。ご存知の方も多いかと思いますが、「マサダ」。ヘブライ語で「要塞」を意味するそうです。歴史的にも距離的にも遠く隔たっているものの、両砦の攻防戦には共通点が多いのです。
「マサダ」はイスラエル東部、死海西岸近くにある古代ローマ属州時代の要塞で、新約物語にも登場するヘロデ大王が離宮兼要塞として改修し、難攻不落と言われました。
イエス死後30余年経った西暦66年、属州状態を嫌う一部ユダヤ人によって、ローマ帝国との戦争(ユダヤ戦争)が起こりました。70年エルサレム陥落。熱心党員を中心としたユダヤ人967人がマサダに立てこもり、ローマ軍15,000人がこれを包囲しました。大ローマ軍に対してユダヤ人たちは、何と2年近くも抵抗を続けたのです。(こちらの攻防戦も映画化されました。)
しかし73年遂に攻め落とされ、陥落直前ユダヤ人たちは投降してローマの奴隷となるよりは死をと、2人の女と5人の子供を残して集団自決したと言われています。
これによってユダヤ戦争は完全に終結し、以後ユダヤの民は「蜜の流るる地」と謳われた、始祖アブラハム以来のカナン(パレスチナの古称)の祖国を追われ、2千年近くもヨーロッパ、北アフリカ、中央アジアなどへディアスポラ(離散)していくことになったのです。
投稿: Lemuria | 2009年6月 8日 (月) 12時18分
いやー。懐かしいです。今でも映画のワンシーンが瞼の裏に浮かびます。
この楽譜が1曲だけ手に入れるサイトはないものでしょうか? どなたか教えてください。
投稿: seishiro | 2011年3月 6日 (日) 15時49分
二木先生 こんばんは
今日は何気なく 先生のページに目をやっていました
こんな曲も掲載されていたのですね
最近の世情を思い 怒りをとおりこして狂いたいほどの心境でした
アメリカの勝手さと それに追従することしかを考えていない日本の政治屋たち ほんとうに恥ずかしいです アメリカは本来 インディアンたちの住む地だったのですよね 白人たち移民が強奪したのです
テキサスも もとはメキシコ領 アラモの戦いでは
サンタ・アナの勝利に終わりますがーー これも結局 アメリカの強奪 それが 国境に壁を築くとのこと 論理矛盾もはなはだしいです
テロをおこさないための世界創り を本気で考えることが先でしょう 二次世界大戦後につづく アメリカ ーーソ連 アメリカ -- ロシア・中国による覇権争い とその混乱に 平和だった国が国家の体をなさないくらいにされてしまった アフガニスタン イラク シリア 酷いものです 怒りは続きますが これくらいで
この 蛇足から 懐かしい「アラモ」「エルシド」の超大作へ いざなっていただき 感謝の気持ちをもって 少し気を鎮めます
投稿: 能勢の赤ひげ | 2017年2月 1日 (水) 20時44分
「皆殺しの歌」私が初めてこの曲を知ったのは、43年ほど前に購入したウエスタン映画主題歌曲集2枚組LPレコードの中でアリゾナ・スクリーン・オーケストラが演奏するこの曲を聴いた時でした!
トランペットの音色が見事に奏でるこのテーマ曲に、強く魅力を感じた私は、その後、映画「リオ・ブラボー」を、字幕スーパー版と吹き替え版の両方を視聴しましたが、劇中で流れる不気味なムードも感じられる「皆殺しの歌」のメロディは、この映画の緊迫感とともに凄みをさらに増し、一段とこの作品を魅力的にしていると感じました。
映画「リオ・ブラボー」で、保安官チャンスを演じる大物「ジョン・ウェイン」の風格とカッコ良さは言うまでもありませんが、この映画に限っては、小言が多い牢屋の見張り番をコミカル風に演じている、老人スタンピー役の「ウォルター・ブレナン」が何とも言えず良い味を出しており、私はこの映画がとても気に入ってます。
緊張する人質交換の場面で、そのスタンピーまでがその激戦に加わり、ダイナマイトを投げては、チャンスがそれを撃ち破裂させる場面は、爽快さと迫力もあり、とても印象に残っています。
また「ウォルター・ブレナン」は、あのアカデミー助演男優賞を5年間に3度も受賞しており、脇役では世界一と言われるのも、この映画を観れば納得がいきます。
映画「荒野の七人」を観て以来、西部劇に強い興味を持ち、ウエスタン音楽が好きになった私ですが、マカロニウエスタンで聴く「エンリオ・モリコーネ」の楽曲「夕陽のガンマン」・「さすらいの口笛」とならんで、「ディミトリ・ティオムキン」の楽曲、この「皆殺しの歌」は、私の好きなメロディになっています。
投稿: 芳勝 | 2018年10月 8日 (月) 22時38分