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2011年4月16日 (土)

一本の鉛筆

(C)Arranged by FUTATSUGI Kozo


作詞:松山善三、作曲:佐藤 勝、唄:美空ひばり

1 あなたに 聞いてもらいたい
  あなたに 読んでもらいたい
  あなたに 歌ってもらいたい
  あなたに 信じてもらいたい
  一本の鉛筆があれば 
  私は あなたへの愛を書く
  一本の鉛筆があれば
  戦争はいやだと 私は書く

2 あなたに 愛をおくりたい
  あなたに 夢をおくりたい
  あなたに 春をおくりたい
  あなたに 世界をおくりたい
  一枚のザラ紙があれば
  私は 子どもが欲しいと書く
  一枚のザラ紙があれば
  あなたを返してと 私は書く

  一本の鉛筆があれば
  八月六日の朝と書く
  一本の鉛筆があれば 
  人間のいのちと 私は書く

《蛇足》さとうきび畑』と同じく、静かに心に染みこんでくる反戦歌です。
 出だしは普通のフォークソングのようですが、1番の終わりから2番へ、さらに最後のフレーズへと進むにつれて、反戦・非核の思いがどんどん盛り上がってきます。「八月六日の朝」「人間のいのち」という言葉が重く胸に響きます。福島第一原発があのような状態にある今年はとくに。

  これが"歌謡曲の女王"美空ひばりが創唱した歌だということに驚く人もいると思いますが、彼女はほかに2曲反戦歌を歌っています。この歌と同じく松山善三・佐藤勝のコンビで作られた『八月五日の夜だった』と、戦没学徒兵・宅島徳光の遺稿に彼女自ら補筆し、船村徹が作曲した『白い勲章』です。
 この3曲の歌唱には、父親の出征と、横浜大空襲を命からがら生き延びたという彼女の
幼少時の戦争体験が反映されているのでしょう。

 『一本の鉛筆』は、彼女の歌のなかでは売れなかった部類に属すると思いますが、彼女自身は好きな持ち歌ベスト10曲の1つに入れています。

 この歌が初めて歌われたのは、昭和49年(1974)の第1回広島平和音楽祭でした。この音楽祭の総合演出者だった映画監督・松山善三が作詞し、黒沢映画の音楽を多く手がけた佐藤勝が作曲しました。
 作曲は大会の実行委員長だった古賀政男がする予定でしたが、その前に脳梗塞で倒れたため、急遽佐藤勝が引き受けることになったという話です。古賀政男の作曲だと、これとはかなり違った感じのメロディになっていたでしょうね。

 14年後の昭和63年(1988)、第15回の同音楽祭で再びこの歌を歌うため、ひばりは広島を訪れました。
 数年前から患っていた大腿骨骨頭壊死
(だいたいこつこっとうえし)と肝臓病が治っていなかったため、出番以外のときは、楽屋に運び込んだベッドで点滴を打っていたといいます。
 笑顔でステージを終えたひばりは、「やっぱり来てよかった」と語りました。翌年6月、52歳で永眠。短くも輝いた生涯でした。

(二木紘三)

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コメント

 おー、良くぞ「1本の鉛筆」を取り上げて下さいました。私は、3年ほど前からご近所のおばちゃん達(美空ひばりと同年代)に集まって頂いて「健康に気を付けながらお互い仲良く長生きしましょう」という趣旨で歌声喫茶の例会を持っている者ですが、実はこのサイトの、特にオーサーの「蛇足」と皆様からのコメントは、毎回選曲や曲目の紹介に際して参考にさせて頂いておりました。遅ればせながらお礼を申し上げます。
 さて、この歌は、昨年も取り上げようとしましたが知っている人が少ないこともあって、なかなか歌う機会が作れないまま延び延びになってきました。今年こそ勇気を持って取り上げ、覚えて頂くことにし、素晴らしい「蛇足」でご紹介頂いた歌の背景なども皆さんにご紹介したいと思いますのでご了承下さい。有り難うございました。(東京江戸川在住)

投稿: たしろ | 2011年4月18日 (月) 11時24分

いつも  たのしい 音楽ありがとうございます。
退屈なとき 暇なとき、聞かせてもらっています。
これからも 利用させて いただきます。
  こぺる

投稿: こぺる | 2011年4月24日 (日) 09時46分

初めてお邪魔します。
30年前、福島大学うたごえサークルに所属していた者です。
「一本の鉛筆」。素晴らしい内容と生い立ちの歌ですね。
最初はリズムが取りにくくて歌いづらい曲ですが、ひばりさんの歌唱を何度も聴いて、ようやく歌えるようになりました。

投稿: katakin603 | 2011年4月30日 (土) 18時41分

いつも「うた物語」に載せられた歌を聞かせてもらっていますが、コメントは初めての投稿となります。

美空ひばりさんが唄っていたという「一本の鉛筆」を知ったのは、数年前にシャンソン歌手のクミコさんのコンサートで聴いて、初めてこの歌を知りました。

なお、クミコさんはコンサートやライブで積極的に「一本の鉛筆」を唄っています。
2006年に発売されたCD「わが麗しき恋物語~クミコ・ベスト」の中に、この「一本の鉛筆」も収録されています。

クミコさんは昨年末のnhk紅白歌合戦に初出場し、「祈り」という原爆被爆者の想いのこもった歌を唄いました。
「祈り」の作曲者・佐々木祐滋さんが、クミコさんが「一本の鉛筆」を唄っているのを知って、自分が作った「祈り」を唄って欲しいと依頼したのだそうです。

なお、佐々木祐滋さんは広島にある「原爆の子」像のモデルとなった佐々木禎子さんの甥にあたる方です。

投稿: キモッチョ | 2011年5月27日 (金) 12時46分

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