なつかしの歌声
(C)Arranged by FUTATSUGI Kozo
1(男) |
《蛇足》 昭和15年(1940)2月21日公開の東宝映画『春よいづこ』(渡辺邦男監督)の主題歌として作られ、同年4月にコロムビアからレコードのA面として発売されました。
B面は同じ作詞者・作曲者・歌手による映画と同名の『春よいづこ』でしたが、『なつかしの歌声』のほうが広く愛唱されました。
『春よいづこ』が歌詞・曲ともセンチメンタルなのに対して、『なつかしの歌声』は、歌詞は感傷的なものの、曲はハイテンポで明るいのが特徴です。そのへんが好まれたのかもしれません。
『なつかしの歌声』は、前奏・間奏・後奏とも長い曲ですが、レコードでは間奏と後奏が少し端折られています。
『春よいづこ』は川口松太郎の小説を映画化したもの。この小説は、昭和12年(1937)公開のフランス映画『美しき青春』(J.B.レヴィ、M.エプスタン共同監督)の翻案作品です。
映画では主人公を藤山一郎、その恋人を宝塚少女歌劇団で娘役のトップスターから映画界に転じていた霧立のぼるが務めました。粗筋はごく簡単にいうと次のとおり。
ある村の老医師の息子は大好きな音楽の道に進むか、父の希望に従って医療の分野に進むかで悩んでいます。そんな息子に老父は自分が末期ガンであると告げて、医院の跡を継いでほしいと説得します。
息子は思い悩んだあげく、ある晩『春よいづこ』と題する作品を創ったあと、父の要望に従うことを決意します。
映画は、早春の氷雨の降る道を彼を支え続けた恋人と相合い傘で歩いていくシーンで終わります。
『美しき青春』は原題が"Helene(エレーヌ)"であることからもわかるように、主人公は女性です。エレーヌとその恋人はともに医科大学で学んでいますが、恋人は医学と音楽の二者択一で悩んだ末に自殺してしまいます。
彼の子を産んだエレーヌはさらに勉強を続け、学位を得ます。そして、妻に去られて研究への意欲を失っていた恩師と結ばれ、医学の道を進む……というストーリーです。
『春よいづこ』と『美しき青春』は、音楽と医学の狭間で悩むという点が共通しているだけで、あとはかなり違いますね。
(上の写真は昭和8年〈1933〉の銀座通り)。
(二木紘三)
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コメント
ブログに取り上げて頂きありがとうございます。
助手席に亡妻を伴って富士山麓の山小屋への帰りの高速道路、眠気覚ましに何度でも繰り返し歌ったのが「国境の町」とこの「なつかしの歌声」でした。明るいセンチメンタリズムが好きでした。勤めていた頃、たまにカラオケに誘われたりすると、私の数少ない持ち歌ぐらいはどこのアルバムにも必ずあるのに、なぜかこの歌はいつも入っていないのでした。映画は日本のもフランスのも観ていませんが、DVDはおそらくないでしょうね。
投稿: dorule | 2013年3月 4日 (月) 21時20分
なんと懐かしい歌を取り入れてくださり感謝。戦時中軍需工場へ動員されていた時、友人がハーモニカで聞かせてくれて初めて耳にした曲です。戦後になって古賀政男がアメリカから帰り、コロムビアへ復帰した時の「誰か故郷を思わざる」に続くヒット曲と知りました。暗い世代によくもこんな明るく、楽しい曲が・・と思いました。まさに「アメリカ土産」ですね。晩年二葉あき子が「初恋の人だった」と言う藤山一郎と弾むような声で楽しそうに唄っているのが印象的です。 85歳のオールドフアン
投稿: オールドフアン | 2013年3月 5日 (火) 16時45分
戦後生まれの私にとっては、昭和40年代のテレビ番組でのかすかな記憶しかありませんでしたが、特徴的な伴奏やメロディーだけは良い曲と思っていたものです。
何年か前に大川栄策のライブで聞かされて、改めて古賀政男・西條八十コンビの素晴らしさに感じ入ったものです。
大川栄策は古賀り直弟子だけに、「あこがれは悲しき乙女の涙」の部分でオトメの半音の所が忠実に歌われていて、原曲藤山一郎等々より、良い印象をもちました。
投稿: 山ちゃん | 2017年6月17日 (土) 22時17分
曲のタイトルの通り、なんとも懐かしい歌ですね。
二木先生の解説にあるとおり前奏・間奏・後奏とも長く、しかもアップテンポで、最初から最後まで調子よく、気持ちよく歌える歌ですね。
一章様のハーモニカ演奏で身体を揺すり、調子を合わせながら、聞きたくなるような歌ですね~。
私も、小学生の頃からハーモニカを吹いてましたが、最近 息が続かず段々吹けなくなってきました。
20年くらい前の古い TOMBO HARMONICA24 C MAJOR ハ長調 ですけど・・・。
投稿: あこがれ | 2018年10月15日 (月) 22時39分
あこがれ様
懐かしい曲のリクエストありがとうございます。
この曲との最初の出会いは、現職のころから戦前戦後のSP盤による流行歌の収集の中での一枚でした。
購入の後、昭和歌謡全集(図書館資料・ネット検索)等で、発売年月を調べ、愛用の蓄音機で視聴するのが、何よりの楽しみでした。
特にこの曲の特徴は、あこがれ様がおっしゃられるように、アップテンポで明るいメロディーに引き込まれてしまいます。
古賀政男の作曲では、陰に隠れた名曲の逸品ではないかと思います。
あこがれ様もハーモニカを楽しんでおられるとの由、仲間が一人増え嬉しく思います。
私の最初のハーモニカ(小学五年生当時~器楽合奏部に所属)は、ヤマハの21穴のハ長調ものでしたが、最近では、もっぱらトンボハーモニカを愛用しています。
ハーモニカには、メジャーとマイナーの2種類がありますが、一度、マイナーハーモニカに挑戦されては如何でしょうか!
今までとは違った音の世界が開けると思います。
投稿: 一章 | 2018年10月17日 (水) 21時23分
「なつかしの歌声」は、戦前昭和歌謡の名曲の一つではなかろうかと思います。
先ず、古賀メロディによる長い前奏が素晴らしく、聴き手は期待感を膨らませて、歌の世界の入口へと誘われます。そして、西條八十さんによる歌詞と合体して、詩情溢れる歌の世界が始まります。
勿論、歌全体が好きですが、殊更、各番の出だし部分(歌詞1番では、♪銀座の街 きょうも暮れて♪)が、心に響きます。
ついでながら、古賀メロディによる長い素晴らしい前奏の、他の例として、「丘を越えて」(S6)を思い起こします。
投稿: yasushi | 2019年4月25日 (木) 13時39分
唱う歌と言えばほとんどが軍歌あるいは軍国歌謡だった戦時中の中学生がロマンスに胸をわくわくさせた「なつかしの歌声」。当時、学校公認の映画は「姿三四郎」「燃ゆる大空」の二つぐらいのものであり、敷島公園の池のボートに乗ってはいけない。禁止の理由は、ボートは女子と二人になるから、ということでした。今考えると、「なつかしの歌声」がなぜ禁止されなかったのだろうと不思議になるような大戦末期でしたが、一方で「いやじゃありませんか軍隊は/鉄の茶碗に竹の箸/仏様でもあるまいし/一膳飯とは情けなや」の兵隊節もすぐ覚えたものです。その4番の「女乗せない船ならば/緑の黒髪断ち切って/軍服姿に身をやつし/ついて行きますどこまでも」と言う未知の女ごころ(バリアントは色々あるようですが)に魅惑される軍国少年でした。
なお、「なつかしの歌声」が1藤山一郎・2番二葉あき子の掛け合いとも知らず、映画も観ていない私は、1番は、いとしの君への憧れを悲しき乙女が歌う、2番では、優しく寄り添いし姿を男が偲ぶものとばかり思っていました。主題歌は必ずしも映画の筋をそのままなぞるわけではないので、西条八十の詩は、どちらの解釈も許すように書かれていると思います。
投稿: dorule | 2020年7月17日 (金) 21時08分
ユーチューブ動画で見ましたが、歌い方が丁寧でしたので気になりこの曲をカバーしている男女の歌手名をご存じであれば教えていただきたいのですが
投稿: 鈴木祥介 | 2022年11月 3日 (木) 16時01分
鈴木祥介さん ここですか?
https://www.youtube.com/watch?v=crgsR2OKuE0
高石かつ枝さんと藤原良さん? 三鷹淳さんとわかばちどりさん?
「作品データーベース検索サービス」のカバーには無いし・・と色々調べていて、
以前「旅のつばくろ」私の 2020年10月17日 (土) や
他のサイトでも、この歌だーれ? があったのを思い出しました。
多分海外の歌手だと思いますよ。
芳勝さん 「旅のつばくろ」歌手名は分りましたか?
投稿: なち | 2022年11月 3日 (木) 21時20分
「なつかしの歌声」数年前にこの曲のページを開くまで、私はこの唄を全く知りませんでしたが、この曲想は仄かに私の大好きな「旅のつばくろ」を匂わせるものを感じ、ここで幾度となくメロディを聴いていくうちに、今では私の琴線を揺する唄になっています!
なち様へ、先の「旅のつばくろ」でのコメントからもうはや二年が過ぎましたね!
実は、そのコメントを投稿した日の数日後、私はそのはやる気持ちを抑え、昔から可愛がっていただいてきた私の知人(現在81歳、流行歌にはめっぽう詳しい方です。)のお宅へ、私のノートPCを持参し、この曲をその映像とともに複数回真剣に視聴していただきました。するとその方の聴覚から出た結論は、多分この声は高石かつ枝だと僕は思う、とそのように仰っておられました。
私は「旅のつばくろ」のカバー動画を初めて視聴した瞬間から、きっとこの歌声は、高石かつ枝さんだとの思いはありましたが、何としても記述的な確証が欲しいとの一心で、その後も検索だけは折に触れ続けていました。そんなある日、もうこれで最後の検索にしようという決意で『高石かつ枝・旅のつばくろ・動画』とタイプし、検索をかけたところ、そこには何と映像も全く同じ『東宝映画(昭和10年)「乙女ごころ三人姉妹」』再生回数う531万回の動画がアップロードされておりました。なのでそれ以来私は「旅のつばくろ」のカバー曲については、高石かつ枝さんの歌声と信じてこの動画を度々視聴しています。
此方東三河地方でも朝晩の冷え込みが徐々に増してきました。なち様もどうかお身体にはくれぐれもご自愛ください。
」
投稿: 芳勝 | 2022年11月 4日 (金) 17時49分
ご連絡、本当に有難うございました。この画面です。
懐メロをこれからも楽しく深堀してゆきます。
投稿: 鈴木祥介 | 2022年11月 5日 (土) 13時05分