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2017年3月17日 (金)

酒と泪と男と女

(C)Arranged by FUTATSUGI Kozo


作詞・作曲・唄:河島英五

忘れてしまいたいことや
どうしようもない寂しさに
包まれたときに男は
酒を飲むのでしょう
飲んで 飲んで 飲まれて 飲んで
飲んで 飲みつぶれて 眠るまで飲んで
やがて男は 静かに眠るのでしょう

忘れてしまいたいことや
どうしようもない悲しさに
包まれたときに女は
(なみだ)みせるのでしょう
泣いて 泣いて ひとり泣いて
泣いて 泣きつかれて 眠るまで泣いて
やがて女は 静かに眠るのでしょう

         (間奏)

またひとつ 女の方が偉く思えてきた
またひとつ 男のずるさが見えてきた
俺は男 泣きとおすなんて出来ないよ
今夜も酒をあおって 眠ってしまうのさ
俺は男 泪は見せられないもの
飲んで 飲んで 飲まれて 飲んで
飲んで 飲みつぶれて 眠るまで飲んで
やがて男は 静かに眠るのでしょう

《蛇足》 昭和50年(1975)6月にワーナー・パイオニアからにリリースされた「河島英五とホモ・サピエンス」のデビューアルバム『人類』の収録曲で、彼の代表作となりました。
 シンガー・ソングライターのほか、俳優としても活躍、東宝映画やNHKドラマなどに出演しました。

 曲には、優しさに裏打ちされた男の強さ、人には見せない男の哀しさや寂しさといった"男であること"にこだわった作品が多く、身長180センチ(公称184センチ)という恵まれた体躯から絞り出すように歌う太い声が、それを強調していました。
 平成13年
(2001)4月16日没。49歳の誕生日を迎える1週間前のことでした。

 私は、彼の歌はほかには、『野風増(のふうぞ)』と『時代おくれ』しか知りませんが、逝去時のニュースから「生き急いだ人物」という印象を受けました。

 生き急ぐ人たちは、普通の人が少しずつ燃やし続ける生命のエネルギーを、早いうちから燃え上がらせ、短期間に使い切ってしまいます。その人生は濃密ですが、短く、それゆえ、多かれ少なかれ悲劇性を帯びます。
 芸術家に多く見られるタイプですが、そのほか革命家、薬物やアルコール・賭博などの依存症、テロリストなどにも、そうした印象を残す者がいます。

 彼らに共通しているのは、早ければ十代のうちに、胸の内に空洞のようなものが生じ、それが次第に膨らんでいくことです。彼らはそれを価値ある何かを遺したいとか、社会をよくしたい、みんなに認められるようなことをしたい、思い切り贅沢したい、何でもいいから生きた証がほしい、といった使命感や欲求を満たすことで埋めようとします。

 もう1つの特徴は、人生は短いと感じている者が多いことです。そこで、少しでも早く自分の使命を果たし、あるいは欲求を充足させようとして、一挙に生命のエネルギーを使い切ってしまいます。彼らは、意識している、いないに拘わらず、常に「死」を抱え込んで生きているのです。

 河島英五は平成13(2001)1月27日、富山のコンサートから帰宅した昼頃、吐血したため緊急入院しました。検査の結果、胃が切れて血が止まらなくなるマロリー・ワイス症候群と診断され、さらに肝硬変や静脈瘤も見つかりました。
 入院してから、吐き気と下痢が止まらず、
体重が一気に20キロ以上も減ったそうです。

 その後、若干恢復、予定されていたコンサートをこなしましたが、それも長くは続きませんでした。
 最期のようすを『日刊ゲンダイ』は、次のように報じています。

 重大局面が4月14日に訪れる。大阪でトーク&ライブショーを終えて帰宅。河島は深夜に吐血。それでも、「病院には行かさんといてくれ」と横になったが、朝に再び吐血して救急車で病院に搬送された。

 その日は奈良でコンサートが予定されていて、「歌わしてくれ」と主張して入院が遅れそうになる最悪の事態も。結局、数時間後に意識がなくなり、医者は「100%意識が戻らない」と宣告したほどだが、まもなく夫人の呼びかけに応えて意識は回復。呼吸器をつけて点滴と輸血のチューブがつながっているのに、「こんなことしとられん、ギター持ってきて」など家族としゃべり続けた。

 だが、ふと黙りこくったと思ったら、それが最期。4月16日未明、家族に囲まれ、笑いながら息を引き取った。2日後に音楽葬形式の葬儀が奈良市で行われ、3人の子供たちが生ギターを手に熱唱。倒れた後、「花見に行きたい」と言っていたため、遺骨の一部は自宅庭にある大きな桜の木の下に埋められた。

 今では"時代おくれ"となった"男らしさ"を貫いた、みごとな一生というべきでしょう。

(二木紘三)

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コメント

 この歌大好きです。

 胸が一杯になる歌詞です。今は歳と共に晩酌一合ほどですが、30代〜50代位まで結構飲みました。年に数回、外で飲むときは午前様でした。夫は大目に見てくれていたのですが、一度だけ朝帰りの時は怒られてしまいました。でも同居の母の目が怖かったです。

 私のお酒は楽しむためのお酒でしたので、歌詞にあるような飲み方は若い頃からしませんでしたが、一人で泣きました。それも夢の中でした。年に数回さめざめと泣きました。時には夢の中で声をあげて泣きました。自分の声で目が覚めるときもあり、目頭に泪が溜まっていました。
 
 夢の中で泣いた朝は目が覚めると、とてもすっきりした気分でした。きっとそれが私のストレス解消法だったんだとおもいます。今は夢の中で泣くということはありません。歳を経たんだなあとおもいます。

 二木先生、河島英五のこの歌はパソコンのお気に入りに入れていて、たまに聴くときがあります。取り上げてくださいましてありがとうございます。

投稿: konoha | 2017年3月17日 (金) 10時55分

私はこの曲には聞き覚えがありませんし、河島英五氏も知りませんでした。彼の生誕の年は私に近いです。彼が活躍していた当時、私は仕事人間でした。また私は全く酒を飲まない人間ですので、このような酒に関わる曲は耳を通り抜けてしまっていたのかなと思います。

彼が病気で倒れた時期は、私が入院した時期とも重なります。彼の病との壮絶な闘魂は私と対照的です。天才と凡人の差ですね。

私は救急車で運ばれ、医者に入院しなさいと言われたとき、”助かった”と思いました。ホットしました。もう会社に行かなくてもよい、と安堵しました。当時は朝8時に出勤し夜9時過ぎまで会社にいました。土曜日も出勤していました。手術が必要と聞いて喜びました。手術の日が二週間延期になりました。入院の日数はさらに延びました。喜びました。お医者さんからもう退院していいよ、仕事ももう大丈夫だよ、と言われた後も退院を一週間延期してもらいました。退院後の自宅療養も必要という診断も追加してもらいました。とにかくもう会社に出勤したくなかったのです。

河島英五氏の仕事に対する退くことのない情熱には胸を撃たれます。動画を拝見し、身長184cmという立派な体躯の中に、男らしさというよりは寂しさと悲しみのようなものを感じました。

投稿: yoko | 2017年3月21日 (火) 00時40分

奈良の町をぶらぶらした時に、奥さんがお店を経営されていたのを思い出し、
探したのですが分かりませんでした。帰ってから調べたら一筋違いでした。
  「酒と泪と男とぜんざい」

「ABCヤングリクエスト」に「ミキサー完備・スタジオ貸します」 のコーナーがあり、
歌手志望の方が出演していました。
円広志 小坂明子 河島英五 はるな愛 関西のタレントさん・・
キダ・タローさんが言われてました。
「唄が下手なので歌手になるのはやめと言ったのは1人もいないけど、
河島英五さんだけには言った、唄が下手だからではなく垢抜けしないから。
でも何回も出場して来た」と。

「野風増」は橋幸夫さんの歌で知りました。

投稿: なち | 2017年3月21日 (火) 14時00分

 この曲とは直接関係ないのですが、河島英五続きで投稿しています。NHKの「ごごナマ」に吉田 類氏が出演していました。吉田氏は酒場放浪記の御仁です。バックミュージックに河島英五の「時代遅れ」が流れていました。懐かしくてYou Tubeで「時代遅れ」を聴きました。河島英五は、高度成長期その後の不況の時代の男の後姿を切なくなるほどに、歌っていますね。
 
 今は死語になっているとおもいますが、「男は外に出ると7人の敵がいる」が男性の言い分(?)、言い訳(?)でした。その言葉はさておき、私は数年間銀行勤めをしました。そこで、仕事する男の大変さを垣間見ることができました。この経験がなかったら、モーレツ社員だった夫の苦労が分からなかったろうなと思っています。「男の美学は我慢の美学」と男性諸君はいっていますが、「酒と泪と男と女」や「時代遅れ」はその美学を歌っていますね。

投稿: konoha | 2017年12月21日 (木) 21時37分

生き急ぐ人の共通的なもの
 「空洞、膨張、価値、遺したい、社会のために、みなからの承認、贅沢、生きた証、使命感・欲求を満たすこと」など、二木先生の解説を何度も読みました。
 中学時代、仕事でぼろぼろになり、家に帰って家族の前で酒を飲んで紛らわそうとする親父。
 働く男として外で出せなかった人間的弱みを幼いこどもの前でも晒していた親父。
 そんな親父を理解を示しながら我々子供を守るため親父の醜態を責めるおふくろ。

そんな親父のようになりたくないと思いながらの高校生時代。「価値、社会、承認、贅沢・・」などに憧れ乍ら受験勉強。前ばかり見ている時、ふり返ると幼い弟妹のあどけない顔、声を思い出す日々・・。「普通に生きる」難しさを学びながらの日々。

 仕事につくと、「高度成長の時代」、組織の中は「モーレツ社員」を目指す男たちの競争社会。konoha さんの書かれた「男は外に出ると7人の敵がいるを実感。
 「酒は飲んでも、酒に飲まれるな」と親父や先輩等からいつも言われた青・盛年時代。確かに酒を飲み過ぎ「生き急いだ友」もいます。今 こうして河島英五の歌を聴ける自分、しあわせに思います。生かされているようにも感じます。みんなに助けられて生かされているように思います。 河島英五の歌は大好きで友達と酒場で歌っていました。
 

投稿: けん | 2017年12月22日 (金) 06時46分

 掲示板のなちさんのコメントからyouTubeで三橋美智也の歌の数々をを聴いていたところ、ちあきなおみが歌うこの歌が出てきました。この歌は男性が歌ってなんぼと思っていましたが、ちあきなおみは女の歌にしてしまいました。ちあきなおみは凄い。河島英五の男心を完全に女心に転換してしまいました。ちあきなおみが歌う『酒と泪と男と女』に女心が酔いしれてしまいます。興味がおわりでしたら、是非聴いてみてください。
      https://www.youtube.com/watch?v=msmuBF69ZcA

投稿: konoha | 2023年6月12日 (月) 19時51分

yokoさん、お達者ですか?

投稿: konoha | 2023年6月12日 (月) 19時58分

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