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2019年11月 6日 (水)

夢のあとに

(C)Arranged by FUTATSUGI Kozo


作詞:Romain Bussine、作曲:Gabriel Fauré、日本語詞:門馬直衛

君の姿が魅了するまどろみの中
ぼくは夢見てた 幸せを、燃え上がる幻影を
君の瞳は優しく、君の声は澄んで響き
君は光り輝いてた、朝焼けに照らされる空のように

君はぼくを呼び、そしてぼくはこの地上を離れて
君と一緒に飛び立ったのだ 光に向かって
空はぼくたちのために雲の扉を開き
未知なる栄光が、神々しい閃光がほのかに見えた

ああ!ああ!悲しい夢からの目覚め
ぼくはお前を呼ぶ、おお夜よ、ぼくに返してくれ お前の偽りの幻を
戻れ、戻ってくれ、輝きよ
戻れ、おお 神秘の夜よ!

Après Un Rêve

Dans un sommeil que charmait ton image
Je révais le bonheur,ardent mirage,
Tes yeux étaient plus doux,ta voix pure et sonore,
Tu rayonnais comme un ciel éclairé par l'aurore;

Tu m'appelais et je quittais la terre
Pour m'enfuir avec toi vers la lumière,
Les cieux pour nous entr'ouvraient leurs nues,
Splendeurs inconnues,lueurs divines entrevues.

Hélas! Hélas! triste réveil des songes,
Je t'appelle,ô nuit,rends-mois tes mensonges,
Reviens,reviens radieuse,
Reviens,ô nuit mystérieuse!

《蛇足》 フランスの作曲家、ガブリエル・ユルバン・フォーレ(Gabriel Urbain Fauré 1845-1924)の名作の1つ。

 フォーレは『レクイエム』や歌劇『ペネロープ』『プロメテ』などの大作も作っていますが、その本領は室内楽などの小規模作品にあったようです。
 この曲は1870年から同77年にかけて作られた『3つの歌(Trois mélodies)』という歌曲集の最初の曲です。楽譜の発売は1878年。エレジーに近いメランコリックな曲調で、歌詞とよく合っています。
 声楽としてはもちろん、器楽としても演奏されますが、器楽では、パブロ・カザルスが編曲したチェロとピアノのバージョンがとくに有名です。

 フォーレは、人妻を含む多くの女性と関係したことで有名。ピカソも女性関係が派手だったそうですが、性欲は創作力の源泉なのかもしれません。もっとも、性的に放縦な人間がクリエイティブとはかぎらず、実際には犯罪者すれすれという人間が多いようです。

 歌詞は、イタリアのトスカーナ地方に伝わる古い民謡を、フランスの詩人、ロマン・ビュッシーヌ(Romain Bussine 1830- 1899)がフランス語に翻訳してリファインしたもの。
 恋人と過ごしていた楽しい夢が覚めてしまったときの味気なさを歌っています。

 恋人の夢では、実際には、この歌のような楽しい夢より、悲しい夢、辛い夢を見る人のほうが多いのではないでしょうか。それは、順調な恋の楽しさより、失恋の苦しさ、悲しさのほうが、傷として心に深く刻み込まれるからです。
 たとえば『酒は涙か溜息か』の

2 遠いえにしのかの人に
  夜毎の夢の切なさよ

4 忘れた筈のかの人に
  のこる心をなんとしょう

 のほうが心に沁みる人が多いと思います。日本人だけのことかもしれませんが。

(二木紘三)

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コメント

恋人を思い、夜に声をかけている訳ですね。
韻が決まっています。

投稿: hurry | 2019年11月 8日 (金) 12時21分

「性欲は創作力の源泉なのかもしれません。」
全くその通りだと思います。小鳥が歌い、巣をつくるのは、異性を惹きつけるため。人に言葉が生れたのも、異性に呼びかけるためだったという説があります。当欄のコメントが減った最近の私などは、人生の衰退期にさしかかっているということかも。それはさておき、フォーレと言えば「月の光」しか知りませんがこの曲をきいていると月光の中をさまっているような不思議な感覚に陥りますね。

投稿: Bianca | 2019年11月 9日 (土) 11時33分

25年前の秋に母を亡くした時、どこからともなく聞こえてきた曲でした。その後も曲名が分からないまま、母との別れと沈み込むような旋律がかさなり、そののち曲名を知りました。作意は「恋人と過ごしていた楽しい夢が覚めてしまったときの味気なさを歌っています」とありましたが、私にとっては母と過ごした戻らない時間の「切なさ」や「愛しさ」が広がる密かにして大切な曲となっています。ご紹介ありがとうございました。

投稿: mrsmzn | 2019年11月17日 (日) 08時15分

この曲に対するコメントが少ない様なので久し振りに書かせていただきます。
この曲はテレビドラマ『北の国から‘95秘密』と『北の国から‘98時代』の多くのシーンで使われました。『北の国から』は幼い兄妹、純(吉岡秀隆)と蛍(中嶋朋子)を連れて北海道富良野近郊に移住した黒板五郎(田中邦衛)を主人公とした物語です。監督・脚本は倉本聰で、1981年から82年にかけてフジテレビで放映されました。シリーズの放映が終了すると、兄妹を演じた役者の成長に合わせて後編(短編)が作られ、2012年まで計8作が放映されました。
『‘95秘密』では純、蛍はそれぞれ恋愛に苦しむ年齢になっています。清掃局に勤める純には恋人が出来ますが、友人を通じて、彼女が過去にアダルトビデオに出演していたことを知ってしまいます。また、看護婦になった蛍は妻子ある外科医と駆け落ちします。蛍と駆け落ちした外科医はチェロひとつしか持って来なかったと蛍をあきれさせますが、この外科医が『夢のあとに』を演奏するのです。しかしドラマでは外科医本人は一切姿を見せません。
『‘98時代』では、蛍の不倫の恋は終わりましたが、蛍は子供を身籠っていました。それを知った蛍の幼馴染の正吉(中澤佳仁)は蛍に求婚し、子供は自分の子として育てると言います。このプロポーズのシーンでもこの曲が使われました。
重苦しい物語の設定に『夢のあとに』のメランコリックな雰囲気が良く合っていました。倉本聰はこの曲を使うことで、恋という’夢‘はいつか醒めて’現実‘が待っていることを暗示したかったのでしょうか。

投稿: Yoshi | 2020年5月29日 (金) 17時32分

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