愛のロマンス/禁じられた遊び
(C)Arranged by FUTATSUGI Kozo
スペイン民謡
愛のロマンス 日本語詞:近藤玲二 1 春はめぐり 花はひらき 2 楽しかりし あの日のこと 3 十字架立てて 花をかざり 4 春はめぐり 花はひらき 禁じられた遊び 日本語詞:飯塚 広 1 空はあおく だまっている 2 水車小屋の 暗いかげで 3 やさしかった 名をば呼びて Ballade Des Jeux Interdits lyrics:Ariane Quatrefage Comme un enfant Comme un regard Joue mon enfant Cours ma douceur |
《蛇足》 ピアノを習い始めると『エリーゼのために』、ギターなら『禁じられた遊び』が弾けるようになることを最初の目標にする人が多かった、と聞いたことがあります。昭和40年代ぐらいまでの話ですが。
私の学生時代、下宿の隣り部屋にいた日大生は、いつも『禁じられた遊び』を弾いていたし、ギターケースを下げた同級生がゼミ室に入ってきたとき、みんながリクエストしたのもこの曲でした。
この曲の起源はあいまいで、スペインの古謡が原曲であるという説、その古謡をベースにギター曲に編曲したものとする説、オリジナルのギター曲であるという説などが入り乱れています。確定した説がないので、上記の作詞・作曲欄では「スペイン民謡」としました。
後2者では、編曲者ないし作曲者として何人もの名前が挙がっていますが、最有力なのがスペインのギタリスト、アントニオ・ルビーラ(Antonio Rubira 1825-1890)です。
彼は1880年代前半にアルゼンチンのブエノスアイレスでギター教師をしていたとき、『ギター練習曲(Estudio para Guitarra)』を作り、出版しました。
彼はこの曲をアルペッジョ(arpeggio 分散和音)の練習用に書いたそうですが、その形は今日演奏されているものと多少違っています。
この練習曲は、パーラー・ミュージックと共通する特徴を備えていました。
パーラー・ミュージックとは、19世紀、とくにその後半にスペインや南米の中産階級の広間で盛んに演奏された音楽で、短調→長調→短調で構成される曲が多かったといいます。『禁じられた遊び』がそうした構成をとっていることを考えると、ルビーラの練習曲がルーツである可能性が高いといえましょう。
1941年に、『血と砂』というアメリカ映画が公開されました。この映画では、スペイン出身のギタリスト、ビセンテ・ゴメス(Vicente Gómez 1911-2001)がルビーラの曲を編曲・演奏したものが挿入曲として使われました。
ゴメスはこの曲に『愛のロマンス(Romance de Amor)』というタイトルをつけました。『禁じられた遊び』が『愛のロマンス』とも呼ばれるのは、これによります。
そして1952年のフランス映画『禁じられた遊び』。ルネ・クレマン監督は、制作費を使いすぎたため、予定していたベテランに音楽監督を頼めず、新人でギャラの安いナルシソ・イエペス(Narciso Yepes 1927-1997)に音楽を担当させました。
イエペスは、音楽の編曲・構成、演奏を1本のギターだけで行いました。これが大当たりで、映画が公開されると、メインテーマ曲が世界的なヒットとなり、イエペスは一気に著名ギタリストとなりました。
日本語詞は、上記のほかに薩摩忠によるものがあります。往(い)にし日の歌舞伎町の『灯』では、飯塚広の歌詞で歌われていたと記憶しています。
『禁じられた遊び』はじめ、『サラの鍵』や『火垂るの墓』など、戦争におさな子が絡んだ映画やアニメは悲しすぎるものが多く、二度と見る気がしないものばかりです。私は、好きな映画は繰り返し見ますが、これらは一度しか見ていません。
『火垂るの墓』のアニメは、一度も見ていません。何十年か前に野坂昭如の原作を読んだとき、(こんな悲しい話にはとうてい耐えられない)と思ったからです。
戦争の実態がいかに過酷なものであっても、映画や小説は最後になんらかの救いがほしい。ほのめかし程度でもいいから。
(二木紘三)
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コメント
「禁じられた遊び」『蛇足』に記してあるように、私がクラシックギターを買った時にどうしても最初に弾けるようになりたかった西洋音楽は迷うことなく、すでに有名だったこのメロディでした!
そして私が海外のギタリストの名前を最初に知った人物も、この映画の音楽ギター奏者ナルシソ・イエペスでした。
この演奏の基本でもある三連符の、薬指・中指・人さし指の動きがスムーズに弦に溶け込むようになるまで、そして確かなメロディを奏でられるようになるまで、それを目標に私は苦戦しながらも毎日無我夢中で猛練習していたことを懐かしく想い出します。
私がこの映画を観たのはずいぶん後になってからですが、映画のシーンで最も強く印象に残っているのは、兵士たちを前にした子役で金髪の少女(上記写真)が、泣きべそをかいているその悲しそうなあどけない顔が忘れられません。
楽譜のタイトルには「愛のロマンス」と載っていますが、私にはやはりこの曲は「禁じられた遊び」と言ってしまいます。
私は今でも時々この曲を眼を閉じて無性に聴きたくなる時がありますが、そんな時、私は必ず村治佳織さんのギター演奏をYouTubeでじっくりと視聴します。これまで日本・海外・問わず錚々たる有名ギタリストの演奏でこの曲を聴いてきましたが、私の中ではこの曲に限っては彼女の奏法が最も心地よく聴こえてきます。
投稿: 芳勝 | 2020年7月27日 (月) 16時50分
「禁じられた遊び」を聴くと、遠い昔の、学生時代の寮生活を思い起こします。
昭和34年春、私が浪人生活を終えて、東京郊外の大学に入学しました。そして、親の家計への負担を減らすべく、大学に近接の寮へ入りました。
今では到底受け入れられないでしょうが、寮では、1室に4人が居住し、プライバシーがないも同然でした。とは言え、そういう状況下で過ごした日々が、以後の人生において、大きな糧になったように思います。
例えば、幸運な出会いがありました。同室に、兄とも呼ぶべき、クラシック・ギターが上手な地方出身の同級生(2歳年上)がいて、よく弾いて聞かせてくれました。こんなにうまく弾く人がいるものだなあと、感心しながら、聴いたものです。
まず、何といっても、「禁じられた遊び」でした。私が、この歌(曲)を知ったのも、このときでした。クラシック・ギターの原点のような曲と言えましょう。
それから、よく聴いたギター曲は、タレガ(Tarrega)作曲の「アルハンブラの思い出」、「アデリータ(Adelita)」、「ラグリマ(Lagrima 涙)」です。「ラグリマ」は、今でも大好きです。
最近、私が好んで聴く「禁じられた遊び」は、アントニオ古賀さんのギター演奏によるものです。『アントニオ古賀 魅惑のギター』(CD 6+1枚)に収録されています。
投稿: yasushi | 2020年7月28日 (火) 16時11分
何とも久しぶりに聞くメロディーです。
この名曲が、これまでこのサイトに出ていなかったという方が驚きです。
今このメロディーを聞きながら、ああいいなあ、というしか言葉はありませんが。
映画「禁じられた遊び」が作られたのが1952年ということですが、日本で封切られたのは1953年〈昭和28年)だったはず、私が高校1年のとき、あのポリーヌでしたか、可愛い女の子の表情の豊かさに深く感動したことを覚えています。今あの愛らしい表情を思い浮かべていたら、不覚にも涙がでてきました。 「ミシェル、ミシェル、、、」
この曲には別の思い出があります。
1968年、私は西ドイツ、ハンブルグに滞在していました。 ある日、ハンブルグ駅前の広場に、日の丸の旗を広げ、そこにお皿を置いて、ギターを演奏している若い人ををみかけました。 いわゆるバッグパッカーのはしりです。
私は無銭旅行者には理解があります。 暫く見ていて、一段落したとき声をかけました。 「おい、めしを食おうか」
めしの前に、私のアパートに連れてきて、アカを落とさせ、新しい下着に着替えさせて、それから行きつけのビアホールに行きました。 こういう時には言葉は要りません。 彼の名まえも、どこから来たのかとか、これからどこへとも聞きません。 何とはなしの言葉を交わすだけです。
ふと思い立って、マスターにギターはないかと尋ね、奥から一つ持ってこさせ、マスターから他の客に断ってもらって、彼になにか一つ曲を弾いてくれと言ったのでした。
彼はそのギターの調子をそこそこ調べたのち、おもむろに弾きだしたのが、この「禁じられた遊び」でした。 私にはギターの巧さというのは分かりませんが、これはなかなか聞きごたえがありました。 他のお客たちも一斉に拍手をしてくれました。 彼は続けて私の知らない曲を三曲、弾く本人は楽しそうに。
終ってビールを一飲みしてして言った彼の言葉が印象的でした。「音楽というのは世界語なんですよ」。 いいですね、この言葉。
翌日朝食後、私が「禁じられた遊び」が好きだろうと知っていて、黙ってまたこの曲を弾いてくれて、そして黙ってアパートをでていきました。
もう半世紀も前のお話です。
投稿: 田主丸 | 2020年7月29日 (水) 16時16分
お友達がこちらを教えてくださいました。私の探している歌詞を教えて頂けたら有り難いのですが。
「そなれの松の梢に澄める
十六夜月の、鏡のおもに・・・」 で始まる、ほととぎすと同じ楽曲の、
「虫によせて」という歌?らしいのですが、歌詞の全体が思い出せないでおります。
愛のロマンス大好きな曲です。いわれを知って楽しくなりました。
投稿: 中谷久子 | 2020年8月 6日 (木) 22時49分
中谷久子様
お探しの歌詞が見つかりました。
次のURLをクリックし、開いた画面をご精読の上、要所のコピーをとり、お近くの図書館に歌詞のコピーを依頼されてはいかがですか。費用はコピー代金・約300円と郵送料金(実費)です。
https://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000130497
(注)お探しの歌詞は国立国会図書館NDLにてデジタル化されていますので、NDLからコピーを入手する
必要があります。
具体的にはこの「うた物語」画面の左側の欄の「うた物語交流掲示板」をクリックし、開いた第1ページの「中谷久子様」宛の伝文(投稿者:山田)をご覧ください。
投稿: 山田 | 2020年8月 9日 (日) 14時24分
ギターを習い始めて最初の練習曲はこの曲という方が多いと思います。
私も高校時代に中古のギターを手にして独学で練習した記憶があります。
やはり、禁じられた遊びの映画の影響もあったのだと思います。
学生時代に神田の共立講堂にギター4の巨匠ナルシソイエペ スがやってきました。手にした多弦ギターから奏でられる愛のロマンスは今でも鮮明に記憶に残っています。
投稿: タケオ | 2020年8月10日 (月) 17時11分
ギターの名曲ですが、二木さんによるこのキーボードの「禁じられた遊び」も、とても素敵です。
私も自己流のピアノでこの曲をとっても楽しんでいるんですよ。この曲は弾きながら陶酔してしまう程素敵な名曲ですね。
ギター演奏では、私にとっては、イエペスさんのものが一番ですが、各フレーズを噛み締める様に弾く荘村さんの演奏もまた趣が違ってとっても好きです。
投稿: 白鳥 絵梨香 | 2021年1月13日 (水) 14時54分
若いころ、この曲を弾きたくて近くのクラシックギター教室に通いました。まず、指の動きをほぐすために、基本中の基本の練習を繰り返していた時、たまた切れない包丁があったので、砥石で研いでいる時、誤って左手中指先の腹をグサッと切ってしまいました。それから時間がたって治ったからまた練習しようと思ったのですが、その切った指の腹で弦をおさえると、悪寒が走っておさえられません。それ以来ギターを弾けなくなっってしまいました。
この曲が流れる映画も見ました。詳しいストーリーは忘れましたが、主人公の少女の悲しいお話でした。二木先生も言われている通り、悲しすぎる話は悲しいという印象は強烈に残りますが、あまり二度見る気持ちになれませんね。あまりに現実は悲しすぎますから。でも、曲は何度も聞いています。
投稿: 吟二 | 2021年2月15日 (月) 19時30分
続けての投稿、皆様すみません。言い忘れましたので失礼ですがまた投稿させていただきました。
田主丸さま
ちょっと前に私がコメントを投稿したとき、皆様のコメントを見ずに投稿しました。その後、皆様のコメントをじっくり読んだら、田主丸さんのエピソードに胸を打たれました。ほんとに良いことをされましたね。あの青年も田主丸さんも一生の思い出になったことでしょう。勇気をもって青年に声をかけて頂いてありがとうって言いたいです。
芳勝さま
私もこの曲は「愛のロマンス」より、絶対「禁じられた遊び」で覚えています。芳勝さま推薦の村治佳織さんによるギター演奏をYouTubeで視聴しました。いいですね。久しぶりで胸が洗われる思いでした。教えてくれてありがとうございました。
投稿: 吟二 | 2021年2月15日 (月) 19時58分
(文中敬称略)
「愛のロマンス」、私は中学校の頃夏休みの宿題で「読書感想文」ならぬ「クラシック感想文」(曲はNHKテレビの「名曲アルバム」で視聴する)みたいなのが出された時にこの曲の感想を書いて提出したのを記憶しています(その内容までは覚えてませんが)。
また、この曲で思い出されるのは、劇場映画(1964、日活、監督:齋藤武市)とテレビドラマ(1964、TBS、脚本:橋田壽賀子、演出:中川晴之助(女優の故・中川安奈の父)/2006、テレビ朝日、脚本:鎌田敏夫、演出:犬童一心)で映像化された「愛と死をみつめて」です。
まこと(映:浜田光夫/64ド:山本學/06ド:草なぎ剛)が黒電話を通じてこの曲をギター演奏してみち子(映:吉永小百合/64ド:大空眞弓/06ド:広末涼子)に聴かせるシーンは今見ても泣けます。
また「愛のロマンス」は2回大胆なアレンジで日本語カバーされており、1983年には郷ひろみが「ロマンス」(作詞:山川啓介、フリオ・イグレシアスのカバーで、イグレシアス来日記念盤)、1993年には荻野目洋子が「ロマンセ」(作詞:荒木とよひさ、日産自動車「ローレル」CMソング)としてシングルをリリースしております。
投稿: Black swan | 2024年2月10日 (土) 14時02分
私の趣味の一つは、映画とその映画音楽、そしてその舞台を訪ねて、ヒーローやヒロインと会うことですす。
南仏の田舎の風景で、少女が、男の子と母の名を呼びながら人ごみにかき消される、ラストシーンにイエペスの曲が重なり、涙目で車窓から見てたのを覚えています。
映画も監督、演者 そして曲、イエペスも一体となった名画、名曲ですね。
投稿: 築地武士 | 2024年4月22日 (月) 18時27分
母を戦禍でなくした幼い少女が、ラストで"ミシェール、ミシェール"呼びながら雑踏の中に消えていく・・その後を追うように流れるイエぺスの悲壮感、悲憤を静かに心の底から沸き立たせるような調べ・・・名画の中の名曲、名優名監督の織り成す、圧巻です。
私には、民謡より映音の存在です。
映画とその映音、そしてその舞台の旅をなにより好きな
私には、南仏の片田舎を通った折、ひヒロインと目が会った気がしてます。微笑んでくれた、安堵した表情で・・・
でも、ウクライナや中東では、いまでもこんな悲劇が続いているのですね・・・愚かなことです、人間は。
投稿: 築地武士 | 2024年12月 8日 (日) 14時44分
懐かしい曲です
われわれ学生時代には セミクラ という
音楽のジャンルがあったと記憶しているのですが
如何でしょう 記憶違いでしょうか
セミクラ のなかでも 有名なものの一つ
ほかには シューベルトのセレナーデ
アルハンブラの思い出 などなど
短くても クラシックのように格調高く
心にひびく だから セミクラと
呼ばれていたのでは と 推測していますが
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先生が 書かれておられるように
戦争の実態がいかに過酷なものであっても、映画や
小説は最後になんらかの救いがほしい。ほのめかし
程度でもいいから。
全く 賛成です
最近は 残酷な事象が多く それらが 報道され
るのが当たり前 また 麻痺させられています
また SNSでの 虚偽映像 虚偽発言
それで 正しい選挙にならない
酷いです アメリカも 兵庫もーーー
投稿: 能勢の赤ひげ | 2024年12月 8日 (日) 19時32分